Dec 25, 2023 interview

共同脚本 & プロデュースの高崎卓馬が語る 自主映画的な始まりから雪だるまのようにどんどん大きく育っていった『PERFECT DAYS』

A A
SHARE

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、男は毎日を新しい日として生きていた。男は木々を愛していた。木々がつくる木漏れ日に目を細めた。そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。それが男の過去を小さく揺らしたーー。

ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが日本を代表する俳優 役所広司と組み、東京を舞台にフィクションの存在をドキュメントのように追う。ヴェンダースにしか到達できない映画『PERFECT DAYS』が生まれた。カンヌ国際映画祭では、ヴェンダースの最高傑作との呼び声も高く、役所広司は本作で最優秀男優賞に輝いた。現在、世界80ヵ国の配給が決定している。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、PERFECT DAYS』で共同脚本・プロデュースを担当した高崎卓馬氏に本作品誕生の経緯、映画への思いなどを伺いました。

アートの力で美しいトイレを

池ノ辺 いわゆる映画業界のルートではないところから、あのヴィム・ヴェンダースが監督、役所広司 主演で映画ができて、気がついたらカンヌ国際映画祭で賞を取って、「一体どういうこと?」と周辺では大騒ぎでした(笑)。まずは、どういった経緯でこの映画を作ることになったのか、そこから伺いたいのですが。

高崎 始まりは、映画をつくろう!というものではなくて、本作の企画・プロデュースの柳井康治さんが中心になって取り組んでいたプロジェクト「THE TOKYO TOILET」です。これは東京・渋谷区の公共トイレを素敵にリデザインしようという試みで、実際、安藤忠雄、坂茂、隈研吾といった名だたる建築家の人たちがトイレをデザインしています。柳井さんから、そのトイレをこれからどうしていくのが正しいのか。メンテナンスひとつとっても公衆トイレの持つ課題がたくさんあって。という相談をされたんです。

池ノ辺 それが出発点だったんですか。

高崎 最初は雑談的にいろんなアイデアを話していて、僕は広告の業界にいるので広告的な解決方法ということももちろん検討したんですけど、広告的な発想でいるとその広告がコミュニケーションしている間はいいけれど、それが終わってしまえば元に戻るような気がしたんです。そんな時にアートの力を借りてみてはどうだろうかという話になって。

池ノ辺 それはどういうことですか。

高崎 心の深いところで感動したりすると、それってすごく残ると思うんです。一生大切にするような出来事になったりもする。たとえば映画とか絵画とか、あるいは風景でも、すごいものを目にした時って、人生観が変わるまではいかないにせよ、ずっと忘れない、そして時々は思い出すような、そういう力を持っている。アートにはそんな可能性がある、という話になったんです。それで僕は映像畑の人間なので、映像、映画で人を感動させるものができないだろうか、映画を作れたらいいよね、となったんです。

池ノ辺 すごくワクワクする流れですね。

高崎 それでせっかく作るんだったら今の自分らしいもので、広告的な意識から遠いものを作りたいというもともとの自分の夢というか欲求のようなものはあったんですが、柳井さんからスケールを大きく考えてみないか、映画を作る座組みそのものですでにひとがワクワクするようなものができないか、と言われて。どういう座組みで映画をつくると、何が起きるか。みたいなことを徹底的に調べたんです。映画の仕組みから勉強するような状態で。ハリウッドの監督から、海外で活躍する日本人監督から、これから世界に認められそうな若い世代まで研究しました。そのたくさんの検証のなかで、ヴィム・ヴェンダースという名前があった。

©Peter Lindbergh2015