Dec 25, 2023 interview

共同脚本 & プロデュースの高崎卓馬が語る 自主映画的な始まりから雪だるまのようにどんどん大きく育っていった『PERFECT DAYS』

A A
SHARE

説明を廃し〈平山〉と同期することで深まる世界

池ノ辺 この作品の主人公に役所さんをキャスティングしたというのは、脚本の段階で決まったんですか。

高崎 もっと前からです。柳井さんと、トイレを舞台にした映画を作ろう、清掃員を主人公にするのがいいんじゃないかといっていた時から、もしやってくれるんなら役所さんみたいな素晴らしい俳優さんがやってくれたらいいよねと話していました。それで役所さんに「もしヴェンダースが監督をやるといってくれたら、受けてくれますか?」という形で話を持ちかけたんです。そうしたら「そんなの断る人いないでしょ」と返ってきました(笑)。

池ノ辺 役所さんとヴェンダース監督と、どちらが先に決まったんですか。

高崎 役所さんが、「ヴェンダース監督とならやる」と言ってくれたのを受けて、ヴェンダース監督には「コージ・ヤクショを知っているか。あなたとなら一緒にやりたいと言っているが」と書いたんです。それで「もちろん彼とやれるのは幸せだし、東京にも行きたい」と返してくれました。

池ノ辺 高崎さんは、役所さんとは過去に何度か一緒に仕事をされていたんですか。

高崎 いえ、映画が実際に動き出す数ヶ月前に、人に紹介してもらって楽屋に挨拶に行ったのが最初です。そこで初めてお会いして、その後はシナリオの進捗とかヴェンダース監督がどういう話をしているといったことを報告しに何度か伺っていました。それが、撮影が始まって現場に現れた役所さんを見てびっくりしました。それまでと全然違う顔つきで、まるで別人だったんです。

池ノ辺 平山になっていたということ?

高崎 簡単に言えばそうです。役所さんは、シナリオに書かれていないことをずっと考えていたそうです。平山だったらこんな時どうするだろうとずっと考えていた、その時間が自分をそのようにしているんじゃないかと役所さんはおっしゃっていました。

池ノ辺 この作品を観て素晴らしいなと感じたことの一つに、説明されすぎていないということがありました。ですから観ている側が、あの人は平山とどういう関係なんだろう、過去にどんな物語があったんだろうと想像をめぐらせて物語を作る。観る人それぞれのそれまでの人生が、映画の奥行きを形作っていっているなと。

高崎 最初にシナリオを書き出した時、カメラを平山から離さないと決めたんです。ですから、平山が見ていないものはシナリオにも書く必要はない。でも彼が見ているものは細かく、たとえば妹が〈レクサス〉に乗ってきたとか、〈鎌倉のお菓子〉を渡す、と書いてあります。もちろんこちらは、なぜそうなのかは全部考えているわけですが、そこは書かない。また、平山が知らない第三者の目線で、こういう話があって、という説明もしない。あくまで平山が見ているのと同じものを観客は見ることになるわけです。そうすると、次第に彼が何を感じているのかを観客も同期して感じられるようになる。そうやってこの映画の没入感が生まれていきます。

池ノ辺 最近の映画や予告編は、お客さんがわかってくれないんじゃないかという事で、どうしても説明が多くなってしまいがちなんです。今回は、それをしないからこそ、観る人の中に奥行きを生み出して、さらにインターナショナルという意味でも広がりのある作品になったんでしょうね。