映画は「水」。自分が生きるためには必要なもの
池ノ辺 この作品は、ベルリン国際映画祭の正式招待作品ということで、世界に向けての発信も期待できますね。
熊切 うれしいですね。ファンタ系の映画祭ならあるかなと思っていましたが、ベルリンはちょっと気難しいというか高尚なイメージがあったので、まさかベルリンとは思っていなかったです。
池ノ辺 ところで、つかぬことを伺いますが、監督は昔、配給会社の宣伝部で仕事をしていませんでしたか?
熊切 お金がなくてバイトをしていました。でも、ハガキに宛名シールを貼るというようなバイトですが。
池ノ辺 そうですよね。実はその頃お見かけした事があって、私の周りでは、「あの熊切さんが映画を撮って賞をもらったらしいよ」という風に話題に出ていて、みんなで陰ながら応援してたんですよ(笑)。ご本人の言質が取れてよかったです。
ところで、監督は最初から映画の道に進もうと思っていたんですか。
熊切 映画は撮りたかったですね。子どもの頃から好きでしたから。
池ノ辺 ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリをとって、でもバイトをしながら、それでも映画を撮り続けてきたわけですね。
そんな監督にとって、映画ってなんですか。
熊切 僕にとっては「水」です。高校生くらいの時、映画をやりたいという僕に対して、配管の仕事をしていた父がよく言ってました。水は人間にとって必要だけれど、映画はそうじゃないと。でも僕にとっては、映画は水と同じくらい必要なものだったんです。
池ノ辺 水と同じくらい必要なものって素敵な表現ですね。これからの作品も楽しみにしています。
インタビュー / 池ノ辺直子
文・構成 / 佐々木尚絵
写真 / 岡本英理
監督
1974年生まれ、北海道出身。大阪芸術大学の卒業制作作品『鬼畜大宴会』( 97 )がぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞。同作はベルリン国際映画祭パノラマ部門他、 10カ国以上の国際映画祭に招待され、一躍注目を浴びる。 10 年、『海炭市叙景』がシネマニラ国際映画祭グランプリ及び最優秀俳優賞をはじめ、ドーヴィルアジア映画祭審査員賞などを受賞。その後も『私の男』( 14 )でモスクワ国際映画祭最優秀作品賞と最優秀男優賞の二冠を達成し、毎日映画コンクール日本映画大賞も獲得した。他監督作品は、『空の穴』( 01 )、『ア ンテナ』( 04 )、『青春 ☆ 金属バット』( 06 )、『フリージア』( 07 )、『ノン子 36 歳(家事
手伝い)』( 08 )、『莫逆家族 バクギャクファミーリア』( 12 )、『夏の終り』 13 )、 『 ディアスポリス -DIRTY YELLOW BOYS-』 16 )、『武曲 MUKOKU 』( 17 )など
勤務先の不動産会社での営業成績はNo1。社長令嬢との結婚も決まり、将来を約束された男・川村。結婚式前夜に開 かれたサプライズパーティの帰り道、酩酊した彼はマンホールの底に落ちてしまう。深夜、穴の底で目を覚ました川村は、手元にある唯一の道具・スマートフォンを駆使し、GPSで居場所を探るが誤作動を起こしてしまう。警察や友人知人、果ては元カノにまで助けを求めるも状況は悪化の一途をたどるのだった。ついには SNS でアカウントを立ち上げ、フォロワーに助けを乞いながら脱出を試みるのだが‥‥。
監督:熊切和嘉
原案・脚本:岡田道尚
出演:中島裕翔、奈緒、永山絢斗 ほか
配給:ギャガ
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公開中
公式サイト gaga.ne.jp/manhole