Nov 12, 2022 interview

中江裕司監督が語る 沢田研二のカリスマ性に驚き、土井善晴と“人”を表す料理を考えた『土を喰らう十二ヵ月』

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どんな料理をどんな器に盛るのかが、人を決める

池ノ辺 この作品では、料理研究家の土井善晴さんが関わっておられますが、もとからのお知り合いだったんですか。

中江 いえ、全然面識はなかったです。テレビで拝見して、面白いおじさんというイメージくらいしかなくて。プロデューサーから、料理は土井さんでいかがですか、と言われて、それはいいですねと事務所にお伺いしたんです。

そしたら、「僕はフードコーディネーターみたいなことはしませんよ。映画の料理担当なんてしたことがないのでわかりません」とおっしゃって、さらに「みなさんはどのレベルでやりたいと考えているんですか」と問われて、「すみません、出直します」と言って帰りました(笑)。

池ノ辺 本当に1回帰ったんですか。

中江 いえ、2回帰りました(笑)。ただ、2回目の時に、やるともやらないともおっしゃらないんですが、こういう人がいるから会ってみたら? と、伊賀の陶芸家の福森雅武さんなど、いろんな方を紹介していただきました。「料理をするとは生きること、いろいろ話を聞いて、台所なども見せてもらったらいいよ」と教えていただいて、実際にその人たちに会いに行きました。

そこから、僕の中でこの映画における料理がどういうものなのかをしっかりしたものに固めていって、単にきれいに見えればいいということではなく、どんな料理を作って、どんな器に盛るのか、そうしたことがツトムという人間の全てを表していくことになるので、それを一緒に考えてもらえませんか、という話をしました。それでようやく動き始めたんです。

池ノ辺 土井さんも納得したわけですか。

中江 とは言っても、厳しいんですよ。「器で人となりも決まるんだから、まず監督さんがどんな器がいいのか探してきたらええんちゃいますか」と言われて、もう、全国走り回って探しました(笑)。

池ノ辺 本当に日本中を探し回ったんですか?

中江 自分の本拠地は沖縄なので、まずは石垣島の陶工、沖縄本島の陶工を訪ね、島根、山梨、京都、そして伊賀と回りました。まあ、先方は何しに来たんだ? という感じでしたから、いろいろ説明をしたりして‥‥。

池ノ辺 ずっと試されてるみたいですね(笑)。

中江 それはもうずっとですよ。でもそれはそうですよね。土井さんとしては、自分は一体何をしたらいいのかという思いが根底にあって、そういう“試す”みたいなことを繰り返しながら自分は何ができるのか、何をすべきなのかということを探っておられたように思います。

ですから料理に限らず脚本もすごく読み込んでくださって、「このツトムさんという人は、女性にあんじょうしたらへんから、振られるんとちゃいますか」とおっしゃって、「その通りですね」なんていう話をしながら、脚本も一緒に手直しして作り上げていった感触があります。

池ノ辺 出来上がったものを観て、土井さんは何かおっしゃっていましたか。

中江 「中江さんがあちこち行った成果ですよ」と言ってくださいました。

池ノ辺 料理もおいしそうでしたね。ご飯のおこげってあんなにおいしそうなのかと驚きました。

中江 料理も、土井さんは1回しか作らないんですよ。もう一度やり直し、というのがない。ですからスタッフは大変でした。事前に狙いを定めて決めて、準備して、それしか撮らない。実は、沢田さんもほとんど1回でした。テイク2は、よほどのことがない限り撮っていません。僕も求めなかったですしね。

池ノ辺 それはわかります。魂を込めてやった一番最初が一番いい、ということですよね。