Nov 12, 2022 interview

中江裕司監督が語る 沢田研二のカリスマ性に驚き、土井善晴と“人”を表す料理を考えた『土を喰らう十二ヵ月』

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作家のツトムは人里離れた長野の山荘で一人、暮らしている。山菜やきのこを採り、畑で育てた野菜を自ら料理し、季節の移ろいを感じながら、原稿を執筆する。時折、担当編集者で年の離れた恋人の真知子が東京から訪ねてくる。食いしん坊の真知子とふたり、旬のものを料理して食べるのもまた楽しいーー。

水上勉のエッセイ『土を喰う日々 ―わが精進十二ヵ月―』を原案に、中江裕司監督が自ら脚本を書き、沢田研二を主演に映画化。また料理研究家の土井善晴が、初めて映画で料理を担当したことでも話題となる。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、『土を喰らう十二ヵ月』の中江裕司監督に、本作品の魅力、撮影時の苦労、映画への思いなどを伺いました

中江裕司監督が語る 沢田研二のカリスマ性に驚き、土井善晴と“人”を表す料理を考えた『土を喰らう十二ヵ月』

池ノ辺 生きること、死ぬこと、食べること、愛すること、すべてが詰まっている素晴らしい映画でした。この作品は『土を喰う日々』という水上勉さんのエッセイが原案ということですが、これはどういった経緯で映画化しようと思ったんですか。

中江 『盆歌』(2018年)というドキュメンタリー映画の編集をしているとき、素材が200時間分くらいあって、これがつらくて。それで現実逃避で本屋さんに行ったら、ちょうど『土を喰う日々』が目についたんです。僕は高校生の時に水上さんの小説を読んでいて、その時に読んだのはサスペンスですけど、女性がちょっと色っぽいんですね、それが好きだったのかもしれないですが(笑)。

ああ、こんなエッセイも書いているんだと思って、さっそく買って読み始めたんです。夢中になって読んで、そしたら最後の方に、ある女性誌の編集の女性たちに唆されて書いた、みたいな一文があったんです。水上さんてかなりモテる文士でしたからね。そこから、じゃあその中の誰かに惚れてたのかなとか、そんな水上さんをモデルにした物語が妄想のように僕の中に湧いてきて、それを脚本にしていったんです。プロデューサーに見せたらけっこうトントン拍子に話が進んで、この映画になったという感じです。

ツトムは僕の中にいる。だからそのまま僕を撮ればツトムになる

池ノ辺 主人公であるツトム役の沢田研二さんが素晴らしかったんですが、監督はなぜ沢田さんを選んだんですか。

中江 モテモテの作家の水上さんがモデルですからね、あの年代でかつ色気がないと成立しないだろうということで、沢田さんだなと思ったんです。

池ノ辺 沢田さんはどんな反応でした? すぐに引き受けてくれたんですか。

中江 とにかく会って、僕をオーディションしてくれと言うんです。

池ノ辺 スターなのに?

中江 そうなんです。だからオーディションされるのはきっと僕らスタッフの方だよねと思いながらその場に向かったんです(笑)。そしたら沢田さんはその場で眼鏡も外されて、「たぶん昔の沢田研二を期待されてこられてるかと思いますが、今の姿はこんなです。これでいいんですか?」とおっしゃったんです。

本当に誠実な方なんだと思って、「もちろんです。ぜひ出てください」とお願いをしたら、「いまのこの姿を晒す覚悟はあります」と、その場で引き受けてくださったんです。

中江裕司監督が語る 沢田研二のカリスマ性に驚き、土井善晴と“人”を表す料理を考えた『土を喰らう十二ヵ月』

池ノ辺 私は、グループサウンズの頃のジュリーの記憶もありますから(笑)、そこから思うと、「この姿を晒す」というのは、確かに大変な覚悟ですね。 沢田さんの動きを見ると、料理も得意そうに見えました。

中江 沢田さんは、自分のことはあまり話さない方なので、僕らも聞かなかったんですけど、たぶん料理はだいぶされていると思います。今回の映画で料理を担当していただいた土井善晴さんが、「沢田さんは相当やっているね」とおっしゃってましたから。

ただ、土井さんと打ち合わせをして決めたのは、料理人のような手早く小慣れた手つきはやめようということでした。家庭料理なのだから、男が不器用に、でも丁寧に料理する。そんな手つきも、とても美しいものだから、その方がいいんじゃないかという話をしました。それで沢田さんにも、ゆっくりで構わないので、とにかく丁寧にやってくださいと言い続けました。

池ノ辺 野菜を洗うときなども、あの水はさぞ冷たいだろうと思うのにそれをものともせず、丁寧に根っこの土まで落としていくのが印象的でした。一生懸命で淡々として、それでいて色っぽい。すごい役者だと思いました。

中江 女性が見るとキュンとするでしょ?(笑) 実は、沢田さんのことで一つ驚いたことがあったんです。撮影現場で沢田さんのツトムとしてのたたずまいに、僕はほんの少しのズレを感じていて、あれ? これでいいのかなという思いがずっとあったんですね。

ところが編集作業になって、そこで映っている沢田さんを見て驚きました。自分が撮影現場で見ていなかった、捉えきれていなかった完全なツトムの姿がそこにあったんです。僕も長いこと監督をやっていますから、それが一致しないなんて考えられなかったんです。

池ノ辺 それってどういうことですか?

中江 僕も不思議で、その理由を考えてみたんですが、カメラマンは沢田さんのことを、ずっと、すごいすごいと言ってたんですよね。

池ノ辺 レンズ越しにしか見えない部分があったと?

中江 僕は現場ではモニターを見ることはなくて、ずっとカメラの横にいるんです。そうするとカメラのレンズとは5度くらいのズレがある。沢田さんはまさにレンズ真正面のピンポイントで芝居をされていたために、僕にはわからなかったんじゃないかと思ったんです。カリスマだと思いました。

演技をする、見られているということがものすごくわかっていて、しかも変なお芝居は一切されない。沢田さん自身がツトムを抱えていて、ツトムは僕の中にいるんだから、僕を撮ればそのままツトムでしょ、というその確信がすごかった。

中江裕司監督が語る 沢田研二のカリスマ性に驚き、土井善晴と“人”を表す料理を考えた『土を喰らう十二ヵ月』

池ノ辺 何だか聞いているだけでぞくぞくしますね。

中江 沢田さんがすごかった、よかったと、それを見つけるのはカメラマンの仕事だと思っているので、それはいいのですが、ただ、沢田さんには負けたと思いました。全然勝てなかった(笑)。