Oct 01, 2022 interview

エド・パーキンズ監督が語る 観る人が思い描くそれぞれのダイアナ妃と出会える『プリンセス・ダイアナ』

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世界が止まってしまったような「ダイアナの死」の衝撃

池ノ辺 そもそも監督がこの映画を作ろうと思ったきっかけは何だったんですか?これほどのドキュメンタリー映画を作るくらいですから、やはりダイアナ妃に対して強い思いがあったんでしょうか。

パーキンズ 正直に言えば、ダイアナ妃に特別な強い思い入れがあったわけではありません。というのも彼女が亡くなった時に私はまだ11歳でしたから。自分にとって、ダイアナ妃の最初の鮮烈な記憶は彼女の死の報道発表でした。

池ノ辺 それは覚えてるんですね。

パーキンズ はい。ある一つの出来事に世界中の目が集まって、それこそ世界が止まったような感覚になる、そういう圧倒的な歴史の瞬間とでもいうような出来事が、時に僕たちには起こります。僕にとって、そのうちの一つが2001年、9.11の同時多発テロで、もう一つがダイアナ妃の死(1997年)でした。

©Jeremy Sutton-Hibbert _ Alamy Stock Photo  /  ©Michael Dwyer _ Alamy Stock Photo

自分がその時に何をしていたか、細かく覚えているんです。僕はすでにベッドに入っていたのですが、母が起こしにきました。そして家族みんなでリビングルームに集まってテレビのニュースを見たのを覚えています。ほぼ1週間にわたって、ロンドンをはじめとする世界中のたくさんの人々が彼女の死を悼みました。そんなことは初めてだったんではないでしょうか。

11歳の僕にとって、有名な方が悲劇的なかたちで亡くなったということも、もちろん衝撃的だったのですが、一方で、これだけ多くの人々が彼女の死に対して心を揺さぶられているという事実に混乱を覚え、すごく不思議な気がしました。いったい彼女と、彼女の死を悲しむ世界中の人々との間にある絆はどうやって生まれたのだろう。そしてその絆はどういうものなのだろう。それをもっと理解したいという思いが、この映画を作るきっかけになっています。

©Justin Leighton _ Alamy Stock Photo

雄弁だったダイアナ妃の静かなボディランゲージ

池ノ辺 ダイアナ妃に関しては、非常に多くの映像があったと思うんですが、どういうふうに集め、編集していったんですか。

パーキンズ ダイアナ妃は、世界で最も多くの写真や映像を撮られた一人で、それはもう圧倒されるほどの膨大な量です。今回の映画を作るにあたって、まずアーカイブ担当のチームには、ダイアナ妃が出ている映像画像を全て手に入れるように伝えました。結果的に1000時間ほどの記録映像が集まり、編集作業の最初の半年は、とにかくこの映像を見続けました。1日8時間から12時間くらいは見ていたと思います。今まで見たことのあるものもあれば、初めて見るものもありました。その中で、自分の心に響いたもの、ハッとさせられた瞬間があったもの、そうしたものを見つけてピックアップしていくということをしていきました。

池ノ辺 気の遠くなるような作業ですね。

パーキンズ 広大な海の中から、光る小石を一つずつ見つけるような、とにかく忍耐のいる作業でした。こうした作業の過程で、特に興味深いと思ったのは、彼女のボディランゲージの巧みさだったんです。

ダイアナ妃は本当にたくさんの映像を撮られてはいますけど、公の場で何か発言をしているというのは、実はそれほど多くはないんです。むしろサイレント時代の映画スターのように、映ってはいても話している内容は聞こえてこない映像が多い。ですが、彼女は自分がどんなふうに見られているか、という自分のイメージをよく理解しているようでした。そして、そこから自分自身の私的なストーリーさえも、あたかも公に発表されたかのように思わせることができる人でした。

ちょっとしたしぐさ、例えば頭をかしげるとか、口角を上げて微笑んでいるような表情とか、そうしたものによって私たちは、彼女に惹きつけられ、彼女の気持ちを想像し、さらに知りたいと思うようになったのではないでしょうか。そういう部分は本当に面白い、興味深いと感じました。この映画でのダイアナ妃は、どちらかといえばもの言わない、静かな瞬間を集め積み重ねています。その積み重ねによって、それを全体として見たときに豊かなものになっていればいいと考えたんです。

池ノ辺 それはとても面白い視点ですね。