May 11, 2022 interview

白石和彌監督が語る 『死刑にいたる病』で描いた人間の奥底をのぞいても分からない闇 

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理想とは程遠いランクの大学に通い、鬱屈と孤独に苦しむ大学生・筧井雅也のもとに、1通の手紙が届く。送り主は24件の殺人容疑で逮捕され、そのうち9件で立件・起訴、第一審で死刑判決を受けている連続殺人犯・榛村大和。「罪は認めるが最後の事件は冤罪だ。犯人が他にいることを証明してほしい」という。その願いを聞き入れ、事件を調べていくうちに、真実は二転三転、謎は深まり、やがて驚愕のラストが待ち受ける。注目のミステリー作家・櫛木理宇の同名小説を、『凶悪』(2013)『孤狼の血』(18)『凪待ち』(19)の白石和彌監督が映画化。榛村大和に多彩な個性派俳優・阿部サダヲ、筧井雅也を実力派若手俳優・岡田健史が務める。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、白石和彌監督に、撮影時の苦労や本作品への想いをうかがいました。

池ノ辺 監督、本日はお忙しい中ありがとうございます。今回、『死刑にいたる病』を観て、うわ〜、面白いと思って、監督にぜひお話をお伺いしたいと思ったんです。監督はいつから映画監督になりたかったんですか?

白石 僕は映画監督になるとは最初は思っていなくて、というよりなれると思っていなかったんです。ただ、映画のスタッフにはなりたかったんです。それは、撮影とか照明とか、どちらかといえば技術系のものを考えていました。

池ノ辺 それがなぜ監督に?

白石 うっかり助監督をやることになって (笑)、そしたらそれがとても面白かったんです。映画をつくっているのは監督じゃなくて俺たちだ、映画を成立させているのは俺たちだと本気で思ってましたし、実際そういう一面もありましたから。

池ノ辺 でもいまの現場はいろいろ苦労もありますよね。一方で働き方改革をしていかなければいけない、みんな早く帰ってと言っても、結局新人スタッフとか現場の人たちは、「そんなことできないよ」という現状もある。監督は、そのあたりはちゃんとしようと一番考えておられるおひとりではないかと思いますけど、今回の撮影も大変だったんじゃないですか?

白石 映画ってやっぱり役者のスケジュールの都合で、その日のうちに頑張って撮り終えなきゃいけない時は遅くなることもあるし、ある程度決まった時間の中でやり切らなければならない部分も多いです。そういう意味ではスタッフに負担をかけてしまうところはあったと思うんですね。でも今回は遅くなってしまった時などは、制作サイドも、じゃあ、翌日はちょっとスタートを遅くしようとか、1日開けましょうとか調整してくれたので、とても助かりました。

面会室のガラス越しに役者の演技がぶつかりあう

池ノ辺 今回の映画では、阿部サダヲさんはもちろんのこと皆さんとても素晴らしかったのですが、岡田健史くんの演技に驚かされました。監督はどういうふうに演出なさったんですか。

白石 ほぼしてないです。あの抑制の効いたトーンも、最初から彼はこうしたいと言っていたし、何を起点にどう演じていくかっていうプランもほぼ彼の中では固まっていました。ここがちょっとわからないと、いくつか質問されたことはありましたが、ほぼ演技プランが出来上がってた印象ですね。素晴らしい俳優だと思います。

池ノ辺 阿部さんもすごい役者ですが、阿部さんと岡田くんの、演技のぶつかり合いが素晴らしかったです。監督が、この映画はこうしていこうと伝えていたことはあるんですか。

白石 こういうシリアルキラーは、表の顔は普通にしていて裏の顔になった時に豹変するというのがありますが、主役の榛村大和の中では、パン屋さんとしてパンを焼くことも、若い男女をいたぶって殺していくことも同じような感覚、人生の一部であり、それをしないと生きていけない人物なので、どっちももう淡々としながらルーティーンとして日々、生活の一部としてやっているという見せ方をしたいという話はしました。