家族の絆は血縁なのか、愛情なのか――。バトンが受け継がれるように、親が代わると同時に名字も次々と変わる人生を歩みつつ、それぞれの親に愛情深く育てられてきた主人公を描いた2019年本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』。累計発行部数110万部突破の感動作が、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲監督の手で遂に映画化。いよいよ10月29日(金)公開となる。血の繋がらない〈父と娘〉、血の繋がらない〈母と娘〉、2つの視点から描かれる「命をかけた嘘と秘密」。
4回名字が変わったヒロインの森宮優子に永野芽郁、優子の継父に田中圭、自由奔放に生きるシングルマザーの梨花に石原さとみ、そして彼女の夫だった男たちに大森南朋と市村正親、ピアノが得意な優子の同級生に岡田健史。実力派の俳優が集結し、家族のかたちと愛情を見事な演技で見せてくれる。
映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』の池ノ辺直子が、今回は原作の瀬尾まいこ先生に、小説がどのようにして書かれたのか、そして映画化への思いをうかがいました。池ノ辺が代表を務める予告編制作会社バカ・ザ・バッカは、『そして、バトンは渡された』の予告編を制作。瀬尾先生に予告編の感想や、中学校の教師経験がどのように原作に反映されたのかもうかがいました。
映画化は、慣れ親しんだ人が目の前に現れたよう
池ノ辺 まいこ先生、こんにちは! 本日は映画化された『そして、バトンは渡された』についてうかがっていきたいのですが、映画化のお話が来たときって、どう思われましたか?
瀬尾 とても嬉しくて、どんな方がどの役をされるのか、ワクワクしていました。
池ノ辺 私の周りでは、役者さんが原作のイメージ通りだったっていう声がすごく多かったんです。原作者としては、どう思われました?
瀬尾 自分が小説を書いているときには、実際に顔を思い浮かべていたわけじゃなかったんですが、違和感はなかったですし、小説よりもドラマチックだったので、もう完全にお話の中に入って観ていました。
池ノ辺 小説よりドラマチックになっちゃうと、原作者としては、“こんなにドラマチックにしていいの?”ってなりませんか?
瀬尾 全然良いと思います。私も、筋を知っていたのに夢中で観ていましたから。話もちょっと違った部分もあったので、引き込まれて観ていましたね。
池ノ辺 それは原作者だけが味わう感覚ですよね。そうすると、ご自分で書かれたものと、映像化されたものでは、別のものっていう意識ですか、 それとも同じところから生まれたものという感覚ですか?
瀬尾 どうでしょう? 完全に別の映画を観ているという気はしませんでしたけど・・・。「そうそう、これは私の知っている話で、こうなるんだよね」っていう感じでもなくて、ずっと同じ世界にいた慣れ親しんだ人が、目の前に姿形を持って現れたような気がしましたね。