Oct 07, 2021 interview

映画『ONODA 一万夜を越えて』 主演・津田寛治が守る、カメラの前で芝居をしてはいけないという教え

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ジャングルは小野田さんの心象風景

池ノ辺 撮影はカンボジアで行ったそうですが、ずっとジャングルの中にいたの?

津田 その日の撮影が終わると、流石にホテルにちゃんと帰って寝ることができましたけど、撮影現場は常にジャングルでした。そこでずっと撮影していると、目の前にあるジャングルが自分の心象風景だと思えてきましたね。

池ノ辺 監督は、小野田さんとそれを取り巻く状況を撮りたかったんでしょうね。

津田 そうなんですよ。だから監督の中では、“ジャングル=小野田さん”だったと思うんですよね。

池ノ辺 撮影中、監督からどんなことを言われましたか?

津田 監督は僕を演出するのにそうとう悩んでいたし、撮影中は常にワ―っと通訳の人にしゃべっているんですよ。それで、こうして欲しいと言われたとおりに演るでしょ。そうしたら、また監督が通訳にワ―っと言ってる。それで通訳の人が来て、「今度はセリフが全体的に棒読みになってるって言ってます」。本当にフランス語で棒読みって言ったのか?って思いましたけど(笑)。クランクアップした後、通訳の人から、「あのときの津田さんは、どんな悪役を演っているときよりも怖かったですよ」って言われましたね。

池ノ辺 それは、どう演技していていいかわからないから?

津田 もう頭がいっぱいになって、一緒に演ってた千葉(哲也)さんも、「いや津田くん、すごい顔してたね、今日の現場」っていうぐらい、本当に顔がすごいことになっちゃってたんですね。

池ノ辺 でも映画の中の寛ちゃんの顔が本当に凄くて、あれは小野田さんがあの場所で生きる状況を表した顔なんだと思いましたよ。体力的にも厳しかったでしょう?

津田 ジャングルを走るシーンで、また通訳の人が来て「今、疲れた芝居で走ってますよね。本当にたくさん走って疲れてくださいと監督が言ってます」って(笑)。それで一生懸命走りながら、やっぱり垢がついていたんだなと感じましたね。今まで俳優をやってきた中でついた垢を、アラリ監督が落とそうとしてくれているんだと思いましたよ。

池ノ辺 後半で小野田さんがあることを決めたときの顔がアップになるんですね。小野田さんが本当にそう決意したときも、こんな表情だったんだろうなって思わせましたね。あれには涙が出た。

津田 あのシーンも、そうとうNGが出ましたね。最初に言われたのが、「自分は今、どこへ向かおうとしているのか一瞬忘れてくれ」と言われて演ったんです。でも、そうやって撮り始めて一発目に言われたのが、「そんなに表情を作らないでくれ」(笑)。

池ノ辺 また言われちゃったの?

津田 そうなんですよ(笑)。自分では作っているイメージはなかったんですよ。気持ちが顔に出ているのか、やっぱり作っている顔になるんですよね。もっと違うレベルでトリップしないと、これは出来ないなって思いましたね。それで、もっともっと普通の自分でいるようにしようと。とにかく何回もテイクを重ねましたよ。それで最終的に、「素晴らしかったよ」って監督に言っていただいてOKが出たんです。