Oct 07, 2021 interview

映画『ONODA 一万夜を越えて』 主演・津田寛治が守る、カメラの前で芝居をしてはいけないという教え

A A
SHARE

カメラの前で芝居をしてはいけない

津田 『ソナチネ』の現場で監督に教えてもらったことが、今も自分の芯にあるんです。

池ノ辺 何を教えてもらったの?

津田 カメラの前で芝居をするなと。とにかく何もしないで立ってろと。それは僕だけじゃなくて、大杉(漣)さんとかみんなが言われていたんですよ。慣れてくると、ちょっと芝居を始めちゃうんですよね。すると、監督ご自身は言わないんですけど、助監督というか監督補みたいな方を通して、「津田くん、芝居が始まっちゃってるよ。ダメダメ、芝居はしちゃダメだからね」って言われるんです。本番直前に、ちょっとボソボソ言いながらセリフをもう一回練習とかしていると、監督補の方が、「それです。その感じでやってください。カメラが回りだすと芝居になっちゃっているので、その感じでお願いします」と。『ソナチネ』の現場でそれを何回も見ているうちに、そうか、カメラの前で芝居しちゃいけないんだって教わったんですよ。それは、いまだに僕の芯に通っているんです。芝居をしてはいけない。芝居をすることで俳優は物語から離れていってしまう。だから物語の中にいるためには、芝居をしている俳優ではなく、自分自身がその登場人物になっていなきゃいけない。

池ノ辺 そうか、『ソナチネ』と同じことを『ONODA』でも求められたわけね。

津田 そう!『ONODA』で、まさにそこに戻ったんですよ。だから、改めてこれをちゃんと真ん中に置いて役者として生きていこうって思いましたね。

池ノ辺 その後、テレビドラマのレギュラーも決まって、シリーズ化もされて確実に寛ちゃんのファンになった人も多いし、そして『ONODA』では世界的な俳優への第一歩になったし、今後も渋い役者としてどんどんやっていってくださいよ。楽しみにしてるわ。

それでは最後の質問です。寛ちゃんにとって、映画って何? 

津田 僕の原点であり、帰る場所っていう感じがしますね。僕は今56歳なので、そろそろ先が見えてくる年齢かもしれないけれど、映画で始まって、テレビドラマであったり、舞台であったり、最近だとWebドラマやYouTuberが演るドラマも出たりとか、芝居と名のつくものはひと通りやってきたんですが、今こうやって話していると、戻るところは映画だなという気持ちが改めてしますね。

常々僕が思っていることに、映画ってやっぱり“海”だと思うんですよ。山は、苦労して登らないとたどり着けないサンクチュアリですよね。海も、ものすごく神聖な気持ちで来る人もいれば、ナンパ目的のヤンキーのあんちゃんがシャコタンの車で来たりもするわけじゃないですか(笑)。海は全部受け入れてくれる気がするんです。それってまさに映画だなと。映画は敷居がないんですよね。スマホで撮っても、「映画撮ったよ」って言ったら、もうそれ映画なんです。そのくらい間口の広いメディアだし、どれだけ敷居が低くなっても、いつかは映画を撮りたいと夢を持っていらっしゃる方がたくさんいる。稀有な場所だと思いますね。

池ノ辺 そうやって、映画と共に生きてきたわけですね。

津田 映画に救われましたね。もし映画ってものがなくて、テレビや舞台だけだったら、僕なんかはもうとっくに脱落していたと思いますよ。テレビはやっぱり、ちゃんとできることが求められますから。僕はちゃんとできないまま、ここまで来ちゃったんですけど、そんな僕を許してくれて、自分はダメだなって思ったときに懐に顔を突っ込めるのは、いつも映画だったんですね。映画は「余計な芝居いらない。情熱だけあればいい」。今、ここにこうやって居られるのは、映画があったからだと思います。

インタビュー / 池ノ辺直子
構成・文 / 吉田伊知郎
撮影 / 吉田周平

プロフィール
津田寛治 (つだ かんじ)

俳優

1965年8月27日生まれ、福井県出身。
『ソナチネ』(93/北野武監督)で映画デビュー。以降、『模倣犯』(02/森田芳光監督)、『トウキョウソナタ』(08/黒沢清監督)、『シン・ゴジラ』(16/庵野秀明総監督)、『名前』(18/戸田彬弘監督)、『山中静夫氏の尊厳死』(19/村橋明郎)など多数出演。また、「水戸黄門」、「特捜9」、「ラーメン刑事」、大河ドラマ「青天を衝け」などのドラマ出演や、自身の脚本・監督作『カタラズのまちで』(13)、『あのまちの夫婦』(17) が公開されるなど、多方面で活躍。2021年公開の映画『ONODA 一万夜を越えて』では、元日本兵・小野田寛郎少尉役を演じている。

作品情報
映画『ONODA 一万夜を越えて』

フランスで出版された小野田少尉の自伝「ONODA 30 ans seul en guerre(原題)」(Bernard Cendoron 著)を原案に映画化。実在の人物である小野田寛郎(おのだ ひろお)旧陸軍少尉が、太平洋戦争の終わりを迎えた後も任務解除の命令を受けられないまま、フィリピン・ルバング島にて約30年間の孤独な日々を過ごした実話を元に描かれた。

監督:アルチュール・アラリ

出演:遠藤雄弥、津田寛治、仲野太賀、松浦祐也、千葉哲也、カトウシンスケ、井之脇海、足立智充、吉岡睦雄、伊島空、森岡龍、諏訪敦彦、嶋田久作、イッセー尾形

配給:エレファントハウス

©2021映画『ONODA』フィルム・パートナーズ(CHIPANGU、朝日新聞社、ロウタス)

10月8日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

公式サイト onoda-movie.com

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
映画が大好きな業界の人たちと語り合う「映画は愛よ!!」記事一覧はこちら