池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」
Season17 vol.03 東宝東和株式会社 営業本部 宣伝部アドバタイジング室 山田武司 氏
映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「新・映画は愛よ!!」
今回は、『クリフハンガー』や『リバーランズ・スルー・イット』などヒット作の予告編制作時の裏話や予告編ディレクターの第一人者、大野滋子さんのお話などを、東宝東和株式会社宣伝部アドバタイジング室の山田武司さんにお話いただきます。
- 池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)
-
『ターミネーター2』(1991年)の時って、アーノルド・シュワルツェネッガーは、どういう状況だったんですか?
- 山田武司 (以下、山田)
-
この頃はもうスターで、東宝東和が『トータル・リコール』(1990年)をやって大ブレイクした後です。
- 池ノ辺
-
『ターミネーター2』の宣伝は何に勝負をかけたんですか?
- 山田
-
予告編とTVCM。
相当悩んだし、いくつも作りましたね。
- 池ノ辺
-
あの頃はTVのスポットを打つというのが、最大の宣伝でしたよね。
それと新聞。
- 山田
-
伝統的に東宝東和は新聞が多かったですけどね。
- 池ノ辺
-
この頃、『ターミネーター2』の他には、どんな作品をやっていたんですか?
- 山田
-
シュワルツェネッガーのライバル、シルベスター・スタローンの作品がありました、『クリフハンガー』(1993年)。
これは元々、夏に公開する予定でブッキングされていたんです。
- 池ノ辺
-
『クリフハンガー』の公開って、冬でしたよね?
- 山田
-
そう。
それで、アメリカで『ジュラシック・パーク』(1993年)が革新的なすごい映画で大ヒットするということで、アメリカの要請かもしれませんけど『ジュラシック・パーク』が夏公開となり、『クリフハンガー』は押し出される形になったんですね。
そしてお正月映画になったんです。
その時の条件で、『ジュラシック・パーク』の上映劇場すべてで、上映前に3分か4分の長い『クリフハンガー』の予告編を流すということ。
実際には、そこまで長いものは作りませんでしたが。
というか、
そんな長いのは、間延びしてしまうので作れませんでした。
- 池ノ辺
-
それはすごい!!
今は90秒の予告編を流すのも難しくて、 60秒のものが多いですが。
- 山田
-
公開時期を動かす条件がそれ。
僕が予告編の担当だったので、『ジュラシック・パーク』を見たお客さんが後で、『ジュラシック・パーク』も面白かったけど、『クリフハンガー』の予告編もすごかった、というふうにしなきゃいけないという話になって。
それで、チケットを回してもらって『ジュラシック・パーク』の完成披露試写会を日劇へ見に行ったんです。
あんな面白い映画なのに、あれほど面白くなく映画を見たのは初めてですよ(笑)。
ヘリコプターが冒頭あたりに出てくるシーンを見れば、『クリフハンガー』にもヘリが出てくるから、これよりもっと迫力があるヘリを出さないといけないとか、予告編でどうするか上映中ずっと考えて。
- 池ノ辺
-
『ジュラシック・パーク』の本編を超えられるものを作ろうと。
- 山田
-
向こうで作ったオリジナルの予告編にモーツァルトのレクイエム『怒りの日』と、最後にちょこっとだけオルフの『カルミナブラーナ』が流れるんです。
これはいい、日本の予告編もこれで行こうとなって予告も組んだところで、向こうの新しいトレーラーが来たんですよ。
それはワーグナーを使ってる。
『地獄の黙示録』(1979年)で使われていた『ワルキューレの騎行』が流れるトレーラーなんです。
それで、日本の予告編もストップがかかって、ワーグナー版とモーツァルト版の両方の予告編を作ってリサーチをしろということになったんです。
絶対モーツアルトの方がいいと思っていましたが、数字として見せなければいけないので、リサーチをかけて。
それで最終的にモーツアルト版になりました。
- 池ノ辺
-
その頃って、アプルーバル(承認)ってどうだったんですか?
- 山田
-
取っていなかったと思いますね。
- 池ノ辺
-
勝手にやっちゃったわけですよね。
- 山田
-
おかげさまですごくヒットして。
- 池ノ辺
-
すごかったですよね。
どのくらいの成績だったんですか?
- 山田
-
いくらかな?当時は興行収入ではなく配給収入だったんですよね(※日本映画製作者連盟の記録では配給収入40億円)。
あの予告編って、セリフが一つもないんですよ。
- 池ノ辺
-
そうでしたっけ?
- 山田
-
オリジナルもモーツァルトだけで、セリフを使っていなかったんですよ。
だけど、あまりにも説明をしていないから、タイトル・カードと効果音は日本で足したりしたんです。
画は当然ながら日本で組み直しています。
この予告編を、もう亡くなられた大野滋子さんにやってもらったんです。
- 池ノ辺
-
大野滋子さんは予告編ディレクターの第一人者ですね。
私の大先輩で、最初は高野プロというところに配属されていらっしゃって。
東宝東和さんの予告は大体やっていましたよね。
- 山田
-
東宝東和で抱え込んでいるような感じでしたね。
- 池ノ辺
-
私も20代の頃、「大野さんみたいに作れ ! 」と何度言われたことか。
構成や畳み掛けのカット編集がすごく上手な人だったの。
大野さんは、ご病気で亡くなられましたけど、洋画の予告編を変えた人でしたよね。
- 山田
-
僕にとっても師匠みたいな方ですよ。
僕が大野さんで印象に残っているのは、1993年公開の『リバー・ランズ・スルー・イット』。
ロバート・レッドフォード監督で、主演のブラッド・ピットがすごくカッコよくって初々しい頃ですね。
でも、文芸作品だから少し話が難しいんですよ。
それで、どんな予告編にしようかと思って、大野さんに、「これ、黒澤明監督の『生きる』でやりたいんですけど」と言って。
- 池ノ辺
-
え~、本当ですか。
- 山田
-
『生きる』の本編の構成は、最初に「これはこの物語の主人公の胃袋である」と志村喬のレントゲン写真が出て、ガンの説明から始まるんですよね。
だから『リバー・ランズ・スルー・イット』の予告編もまず、状況や背景の説明から入るのではなく、核心を先にズバリと言いたい、と。
そこでブラッド・ピットの顔のスチール写真をセピア調にして、「ここに1枚の写真がある。弟の写真だ。ともに笑い、ともに泣き、ともに暮らした一番近くに居た者が、一番遠くに行ってしまうのを僕は知らずにいた。」というナレーションを入れて、ブラッド・ピットが死ぬというか別れの予感を漂わせるような予告編にしたんです。
ナレーターも専門じゃない人を使いたいなと思って、俳優の高岡健二さんにお願いして。
僕は神代辰巳監督の『宵待草』(1974年)の高岡さんが印象に残っているんですけど、野球の上手な方だったので、たぶん高校球児か甲子園のドキュメンタリーのナレーションを担当されているのを見て、それがすごく良かったので高岡さんに。
- 池ノ辺
-
すごいな〜、そんな発想を予告編にしちゃうんだから。
他には何か印象に残っている作品はありますか?
- 山田
-
ジャッキー・チェンの作品に関わる事は多かったですね。
毎回、何か新しいジャッキーを出していかないといけないと悩みました。
僕が担当して印象に残っているのが、『レッド・ブロンクス』(1995年)。
ジャッキーは『バトルクリーク・ブロー』(1980年)で一回ハリウッド進出を狙ったんですけどうまくいかなかったんですよ。
それで二回目となる『レッド・ブロンクス』で全米ナンバーワンをとったんです。
日本では予告編の最後にジャッキーがトラックに轢かれそうになって「大丈夫か?」と訊かれて「ダメだ」と答えて、また走り出していくのをオチにしたんです。
普通のヒーローでしたら、「大丈夫か?」と訊かれたら「大丈夫だ」と答えて敵に立ち向かうのに、ダメだと正直な弱音を言いながらも向かっていくのがジャッキーらしいと思って。
そうしたら、関西の方から「やっぱりジャッキーは最後にニッコリ笑っていなきゃ」と言われて、関西バージョンだけ、そのあとジャッキーがニッコリ笑って親指を立てているのをくっつけたんです。
- 池ノ辺
-
関西バージョンの予告があるということですか?
- 山田
-
ええ。
そのあとアメリカでビデオになった時に、アメリカのビデオの宣伝予告は日本で作ったバージョンと同じ「ダメだ」と答えて、また走り出していくオチを使っていたので、嬉しかったです。
- 池ノ辺
-
そういうことってあるんですね。
- 山田
-
もうひとつ、印象深いのは『死霊のはらわたⅢ』。
現在のCGが駆
使される時代以前に、 特殊メークアップなどの恐怖表現が進歩してホラー映画が注目を浴 びた時期があったのですが、 そのブームも落ち着いてしまった時の映画でした。 宣伝プロデューサーが悩んだ末、邦題に『キャプテン・スーパーマーケット』(1993年)とつけたんですよ。
- 池ノ辺
-
『死霊のはらわた』(1981年)って1作目は随分昔ですよね。
- 山田
-
そうです、ヘラルドさんがやってました。
- 池ノ辺
-
サム・ライミのやつですよね。
弊社創業メンバーの小松が前会社の時に予告編作ったんですよ ! 床から顔だして笑う奴(笑)。
それを『死霊のはらわたⅢ』は『キャプテン・スーパーマーケット』という邦題にしたんですね。
- 山田
-
はい。
主人公はSマートというスーパーに勤めている日用品係なんですよ。
それが1000年くらい前にタイムスリップしちゃってという、ホラーよりも完全にコメディの方に寄ったのが3作目だったんです。
「こんなヒーロー見たことない!空飛べない。変身しない。でも、イザとなったら卑怯者!ハッタリかまして泣く子も笑う、ニューヒーローの誕生だ !! 」というコピーを付けたのですが、当たりませんでしたね。
予告編では石塚運昇さんに「空飛べない。変身しない。いざとなったら卑怯者。彼の名はキャプテン・スーパーマーケット!これで地球も安心だ~!」と叫んでもらったのですが。
あと、スーパーマンの有名な「鳥だ!飛行機だ!」のナレーションのパロディで「棚卸しだ!半期一度の在庫一掃セールだ!彼は史上最強のスーパーマーケッター!」とか何とか言ってもらった記憶が。
予告はガル・エンタープライズの畑島浩さんですね。
今だったら『デットプール』(2016年) とかそういうヒーローも、受け入れられるというか当たる感じですけど、当時はダメでしたね。
(文:モルモット吉田 / 写真:江藤海彦)
©2017 Storyteller Distribution Co., LLC and Walden Media, LLC
映画『僕のワンダフル・ライフ』
ゴールデン・レトリバーの子犬ベイリーの“最愛の人”は、暑い車の中に閉じ込められて苦しんでいるのを救ってくれた、8歳のイーサン少年だった。それ以来、1人と1匹は喜びも悲しみも分かち合い、固い絆で結ばれていく。だが、犬の寿命は人間よりうんと短い。ついに、旅立つ日がきてしまう──はずが、ベイリーの愛は不死身だった! アメフト選手になる夢を断たれ、初恋の人とも別れてしまったイーサンを心配し、何度も生まれ変わってきたのだ。なぜなら、「イーサンを愛し、幸せにするのが僕の役目」だから! けれども、そう簡単にはイーサンと遭遇できない。ようやく3度目でイーサンとの再会を果たしたベイリーは、自らに与えられた“重要な使命”に気付くのだが──。 すべての愛犬家の夢を形にした、犬と人間の極上のラブストーリーが誕生した! 名匠ラッセ・ハルストレム、ドッグシリーズの集大成けなげでかわいい犬を主人公に贈る、涙と笑いと感動の物語!
監督:ラッセ・ハルストレム 原作:W.ブルース キャメロン『野良犬トビーの愛すべき転生』(新潮社) 出演:デニス・クエイド(吹替:大塚明夫)、ブリッド・ロバートソン(吹替:花澤香菜)、K・J・アパ(吹替:梅原裕一郎)、ジョシュ・ギャッド:ベイリーほか犬の声(吹替:高木渉)ほか
配給:東宝東和
9月29日から全国ロードショー
PROFILE
■山田武司(やまだたけし)
東宝東和株式会社 営業本部 宣伝部アドバタイジング室
1960年7月30日生まれ。1984年東宝東和に入社。広報部所属。1990年に広告部、1991年広告部映像班が新設され所属(映像全般の制作担当)2010年宣伝部長。2012年総務部、東和プロモーション、2016年には東宝東和マルチメディア事業部所属。2017年宣伝部アドバタイジング室に所属し、現在に至る。
<主な担当作品> 『ダンス・ウィズ・ウルブズ』 『ターミネーター2』 『ラスト・オブ・モヒカン』 『メジャーリーグ2』 『リバー・ランズ・スルー・イット』 『クリフハンガー』 『シックス・センス』 『山の郵便配達』 『ターミネーター3』 『トゥームレイダー』 『コールド・マウンテン』 『Mr.&Mrs.スミス』 『アメリカン・ギャングスター』 『マリー・アントワネット』 『ウォンテッド』 『マンマ・ミーア!』 『ザ・マミー / 呪われた砂漠の王女』 『怪盗グルーのミニオン大脱走』