Jan 31, 2017 interview

第4回:ヒットの秘訣は運だね、運。

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池ノ辺

でも、ここからの巻き返しがスゴい。

加茂さんはそれで、起死回生のヒット作を生み出すんですよね。

加茂

僕じゃない。

パラマウントの人たちのおかげです。

「売るものがなければ自社のアーカイブを売ろう」。

そこで『ローマの休日』を劇場公開したんです。

池ノ辺

私ね、映画の仕事をしているから、「これまで観た映画の中でNO.1は何ですか?」ってよく聞かれるんですけど、いつも、今、作っている予告編の映画よ!って答えていたのですが、そればっかりでも能がないなと、改めて何がNO.1映画か考えたとき、「やっぱり『ローマの休日だ』」と思ったんです。

ラブストーリーがあって、ドラマがあって、コメディがあって、もう本当に映画の王道。

これを加茂さんたちは、デジタル復元プロジェクトとして蘇らせたんですよね。

加茂

ちょうど時代がVHSビデオからDVDへと大きく移行する時期だったんですよ。

で、DVD化するにあたって、パラマウントはデジタルリマスターじゃなく、完全にフィルムを修復してDVD化する、つまりはレストア化する、と本社のアーカイブの部署から連絡が来ていて、これをとにかく売ろうと。

でも、せっかく、美しい映像として蘇るのなら劇場でかけたいねってみんなで思い至ったんです。

劇場公開は僕のいたホームエンタの領域の仕事じゃないので、本社の配給する部にもっていったら、UIPに相談しろと。

池ノ辺

当時のUIPは大作ぞろいで、過去の映画に注力を注がなくても大ヒットを記録していた時代ですからね。

旧作をやるほど暇じゃない。

加茂

そうなんです。

UIPはユニバーサル、パラマウント、ドリームワークスの3つのスタジオを配給しているので、「あなたたちが自分で公開したらどうか」って当時の代表に言われたんですよ。

池ノ辺

チャンスじゃないですか?

加茂

そうなんだけど、ビデオ部門しかないので、劇場公開のノウハウを持っていない。

今度は当時の日本ヘラルドに配給してもらえないか打診しに行ったんですけど、あちらも手いっぱいだと。

それでも、どうしても劇場公開したくて、東京テアトルさんに話を持って行ったんですよ。

そしたら、テアトルはご存知のように、非常に丁寧な配給をする会社で、『ローマの休日』を公開するのは光栄だと、とてもリスペクトをもって、劇場公開してくれたんです。

また、当時は兄弟会社だったユナイテッド シネマさんにも賛同していただきました。

あとで、のちに角川映画でご一緒させていただいた当時のヘラルドの営業本部長だった業界の有名人・荻野さんに、「あれ断って、すごく損したなあ」といつもの名調子で言われましたけど(笑)

池ノ辺

そうそう、大ヒットになったんですよね。

加茂

すごかったね。

あれは今は新宿高島屋にあったタイムズスクエアで公開したんですけど、初日、高島屋からJR新宿駅の東南口までずらっとお客さんが並んだんですよ。

当時は窓口でチケットを買うしかないから、みんなチケット売り場にずらっと並んで圧巻でした。

そして初日初回エンドロールではお客さんの拍手、泣いている方も大勢いて感動で涙、涙でした。

劇場公開のすごさを身にしみて感じました。

池ノ辺

どれくらいの数字になったんですか?

加茂

単館系の公開で、最初は都内4館からのスタートでしたけど、最終興収1,5億円を超えて劇場配給で利益が出ちゃったんですよ。

宣伝費もそんなにかけられないし、パブリシティと高島屋さんとタイアップが頼りでした。

パブリシティは本当によくでました。

それと高島屋さんの紙袋の表面にオードリー・ヘップバーンのビジュアルが出て、高島屋さんの紙袋が歩く広告塔と貢献してくれました。

で、当時の僕の本業はDVDを売ることだから、こちらにもリストアの作業の特典映像などもつけて、これも爆発的にヒットとなり、DVDの販売も初回で10億円を越えちゃった。

池ノ辺

大成功じゃないですか!

加茂

そうそう、だから、本社からその年のグランプリ賞をもらったんです。

池ノ辺

グランプリ賞ってなんですか?

加茂

新しいイノベーションを興したことへの特別賞みたいなものですね。

外資系はこういう、前例のない成功例が好きなんですよ。

僕ら日本チームがやった方法は全世界でもできるんじゃないかと。

部署を越えて、過去の名作を劇場公開することで、DVDそのものも大ヒットするんだよと。

スタジオは、旧作は大切な財産なんだ!と。

この経験は、著作物を保有するという意義の勉強になりました。

KADOKAWAでも同じです、『沈黙 サイレンス』でスコセッシ監督がKADOKAWAの『雨月物語』をオマージュしたように映画は財産なんだと。

池ノ辺

やっぱり、成功のカギはストレス耐性ですか?(笑)

加茂

それもありますけど、僕は営業部門のディレクターだったんですが営業部員は日々の営業に忙しい。

直接やる人がいないから僕が直接劇場営業をやることになってテアトルの森平さんにいろいろ教えていただきながら覚えました。

でも映画配給の世界の常識を知らなかったから、DVD部門でも劇場公開しようと思ったし、公開するんだったら宣伝にも力を入れようと、そこも新鮮でしたし。

いや、知らないってことは強いなと。

池ノ辺

そこで編み出したヒットの秘訣はありますか?

加茂

運だね、運。

池ノ辺

運はどうやって切りひらくんですか?

加茂

やっぱり、根性かな?(笑)

池ノ辺

根性とやる気。そしたら運は向いてくる?

加茂

それはある、そして信じること。

また、『沈黙 サイレンス』に結びつく(笑)

作品が決まったら宣伝する側、発信する側に熱量がないと媒体にもお客さんにも伝わらないから。

なのでKADOKAWAのみんなに言うんです。

映画が当たらなかったといって反省会をするな。

自分たちができるすべてを出し切ったかを問えと言ってます。

池ノ辺

かっこいい!

わかりました。

加茂さん、だからヘッドハンティングされるわけですね。

(文:金原由佳 / 写真:岡本英理)


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『沈黙 サイレンス』

アカデミー賞受賞監督のマーティン・スコセッシ監督が「どうしても自分の手で映画化したい」と願って28年、遂に遠藤周作の小説「沈黙」を映画化。江戸初期の日本を舞台に、キリシタン弾圧とイエズス会宣教師たちへの迫害通して、人間にとって大切なもの、そして人間の弱さとは何かを描き出したヒューマンドラマ。キリシタン弾圧を推し進める井上筑後守を演じたイッセー尾形さんが、LA映画批評家協会賞の助演男優賞の次点に選ばれた。主人公ロドリゴ役を「アメイジング・スパイダーマン」のアンドリュー・ガーフィールドが演じた。そのほかキチジロー役の窪塚洋介をはじめ、浅野忠信、塚本晋也、小松菜奈ら日本人キャストが出演。

監督:マーティン・スコセッシ 脚本:ジェイ・コックス、マーティン・スコセッシ 出演:アンドリュー・ガーフィールド、アダム・ドライバー、浅野忠信、窪塚洋介、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ ほか

全国公開中

http://chinmoku.jp/

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PROFILE

■加茂克也(かも・かつや)

株式会社KADOKAWA 映像事業局 邦画・洋画ディビジョン マネージャー 1959年生まれ。大学在学中、サッカー選手契約(読売クラブ1969 現東京ヴェルディ)戦力外通告後、ワーナーランバート、ネスレジャパンを経て2002年パラマウント ホーム エンタテインメントに入社。 2007年角川エンタテイメントに入社後、角川映画、角川書店を経て現在に至る。

池ノ辺直子

映像ディレクター。株式会社バカ・ザ・バッカ代表取締役社長
これまでに手がけた予告篇は、『ボディーガード』『フォレスト・ガンプ』『バック・トゥ・ザ・フューチャー シリーズ』『マディソン郡の橋』『トップガン』『羊たちの沈黙』『博士と彼女のセオリー』『シェイプ・オブ・ウォーター』『ノマドランド』『ザ・メニュー』『哀れなるものたち』ほか1100本以上。
著書に「映画は予告篇が面白い」(光文社刊)がある。 WOWOWプラス審議委員、 予告編上映カフェ「 Café WASUGAZEN」も運営もしている。
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