池ノ辺直子の「新・映画は愛よ!!」
Season11 vol.02 東京国際映画祭・事務局次長 井原敦哉 氏
映画が大好きで、映画の仕事に関われてなんて幸せもんだと思っている予告編制作会社代表の池ノ辺直子が、同じく映画大好きな業界の人たちと語り合う「新・映画は愛よ!!」 第2回は、本日からいよいよ開催の東京国際映画祭について、今年のハイライトから、映画祭の役割、そして今後の展望について伺います。
- 池ノ辺直子 (以下 池ノ辺)
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とうとう始まりましたね、東京国際映画祭。毎日バタバタでしょう?
- 井原敦哉 (以下、井原)
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始まってしまうと、そうでもないです。むしろ本番でバタバタしている方が危ない(笑)。
準備期間の方が色々と大変ですね。
本番はトラブル回避や危機管理の方に神経を尖らせています。
- 池ノ辺
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映画祭は作品上映やイベントがたくさんあって、業界人でもフォローできないくらいですよね。
せっかくなのでまずは今年のハイライトや、例年と違った新しい企画があれば、教えてもらえますか。
- 井原
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はい、今年最もフォーカスしているのは、細田守監督と岩井俊二監督のお二方です。
細田守監督は、日本を代表する映像作家として世界にアピールしたい方です。
今回はテレビアニメや他の作家とのコラボ映像も含めて、さまざまな作品を上映できるようになったので、とても楽しみな特集です。
そして、岩井俊二監督、日本ではとても有名ですし、カンヌなど国際映画祭の常連組に名を連ねていてもおかしくありません。
日本が誇る才能を海外へ発信していく出来る限りのバックアップを東京国際映画祭は、していきたいと思っています。
- 池ノ辺
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映画祭の役割は、国内の作品や才能を海外に伝える役割があるんですものね。
- 井原
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まさにそうなんです。
でも海外から映画祭にやってくるジャーナリストからよく言われるのは、「映画祭ではコンペや公開間近の作品ばかりで、いま日本でどんな映画が流行しているのかがよくわからない」という声があったんですよ。
なので昨年より、そうした声に応えて、いま日本で流行っているだけでなく、世界に誇れる作品を紹介していく「JAPAN NOW!(ジャパン ナウ)」という特集枠を安藤紘平さんにプログラミングしていただいております。
- 池ノ辺
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作品群がスゴい!
大ヒットした『君の名は。』、『シン・ゴジラ』、『怒り』もちゃんと入ってるし、黒沢清監督、初の日仏共同製作の映画『ダゲレオタイプの女』や、今年カンヌで初出場にして初受賞した深田晃司監督の『淵に立つ』とか、話題作が揃ってる。
濱口竜介監督の大作『ハッピーアワー』という若手監督の注目作品なども入っているのはさすがのセレクトですよね。
- 井原
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作品を選定した時点ではまだ『シン・ゴジラ』も公開されていなかったので、興行収入が70億円を超える大ヒットになるのは予想できなかったんですけどね。
- 池ノ辺
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公開前から『君の名は。』がリストに入っていたなんて、スゴすぎます!
- 井原
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いま振り返っていても、かなり良いラインナップになっているかと。
ドッシリとした作品郡の中に、宮藤官九郎監督の最新作『TOO YOUNG TOO DIE! 若くして死ぬ』のようなトンがった作品も入っているところが、いいなと思ってます。
- 池ノ辺
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そして2014年から新設された「SAMURAI(サムライ)賞」は、今年は、マーティン・スコセッシ監督と黒沢清監督に決定しましたね。
- 井原
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スコセッシ監督は、第28回高松宮殿下記念世界文化賞を受賞されるために来日なさって、遠藤周作原作の『沈黙 サイレンス』の、記者会見を行いました。
そこで「SAMURAI(サムライ)賞」の受賞コメントのムービーを撮影しました。
- 池ノ辺
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それは楽しみです。授賞式には黒沢清監督が壇上し、スコセッシ監督はムービーでご挨拶なんですね。
- 井原
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はい。それから、2年前から東京国際映画祭と国際交流基金がコラボして、ひとつのテーマで3人の監督がオムニバス映画を共同製作するプロジェクト「アジア三面鏡」を今年も企画しています。
今年はフィリピンとカンボジア、日本の三カ国で3本製作し、ワールドプレミア上映します。
日本からは行定勲監督が出て『鳩 Pigeon』という作品を撮りました。
- 池ノ辺
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お〜! やっと出来上がったのですね。去年から「アジア三面鏡」のプロモーションムービーを作っていたから、嬉しい。
あと、毎年楽しみにしてるんですけど、歌舞伎座での上映は今年もありますね。
- 井原
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もちろん、今年もやりますよ。
毎年歌舞伎と映画の両方を歌舞伎座で上映していますが、今年は尾上菊之助さんによる舞踏『鷺娘』の上演と、無声映画の上映をやるんです。
これが、スゴくおもしろい!
無声映画の『血煙高田の馬場』は6分間の映像ですが、なんと、古館伊知郎さんが弁士になります。
とはいえ、“古館・弁士”なので、良い意味でまともではない(笑)。
「ぜひ自分なりの弁士をやりたい」という古舘さんの意向もあって、古館さんオリジナルの弁士が聴けるはずです。
- 池ノ辺
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それはすごい!!面白そう!!
- 井原
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これは発表した時に、かなりの反響がありました。
外国人の方にはまったくわからないかもしれませんが、これが今年の大きな目玉かもしれませんね。
1万円もするチケットが、バババッと売れてしまいました。
あとは、2020年にハリウッドでリメイクされる予定の『キングコング対ゴジラ』の4Kデジタルリマスター版上映とかも行います。
- 池ノ辺
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チケット争奪戦ね。
- 井原
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チケットに関しては毎年ご指摘されてしまうところですが、今年は、六本木ヒルズアリーナを野外シアターにして、無料の野外上映もやるんですよ。
- 池ノ辺
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前回話した「野外上映 Cinema Arena」のことですね。私の予告編デビュー作といっても過言ではない『フラッシュダンス』も上映するんですよね。
これはみんなで見なきゃダメです!!
- 井原
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ハリウッドのアクション映画の代表作『アメイジング・スパイダーマン2』や『スター・トレック』を4K上映したり、80年代の名作『愛と青春の旅立ち』、『トップガン』、『スタンド・バイ・ミー』とか、日本映画だと岩井俊二監督の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』などですね。
多くの方に観に来てほしいです。
- 池ノ辺
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ほかに何か例年と違った企画はありますか?
- 井原
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異色なのは、「TIFFアニ!!」というアニメーションの特別イベントです。
まだ完成していないアニメ作品を10~15分間、初出し上映してトークイベントをするというイベントを第1部でやります。
第2部では声優の野島健児さんに出てもらうイベントを企画しました。
野島さんが連載しているアニメ音楽雑誌とのコラボレーションで、アニメと映画について、深く語った上で「歌う」イベントで、映画祭ならではのこの日しか見ることができない映像や特別ゲストを迎えます。
アニメも映画に欠かせない重要なファクターなので、日本のアニメーションの「今」を映画祭で取り上げる意義は大きいと思っています。
- 池ノ辺
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それは、面白そうな企画ですね。
そういえば、今年からメイン会場が変わったんですよね?
- 井原
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今年は六本木のEXシアターがメイン会場になります。
実は国際映画製作者連盟の決まりから、一番大きな劇場でコンペティション作品を上映しないといけないんです。
- 池ノ辺
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でも、六本木で行われることには変わりないんですものね。
次回は、映画祭の今後の展望などについて、お伺いしていきたいと思います。
(文:otoCoto編集部、写真:岡本英理)
第29回 東京国際映画祭
日本の映画産業、文化振興に大きく寄与してきた映画祭で、国際映画製作者連盟公認としては日本唯一の国際映画祭。今年は日本映画の特集上映では、アニメーション作品『バケモノの子』を監督した細田守の特集や、黒木華主演の最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』で日本映画として約12年ぶりに実写長編映画を手がけた岩井俊二監督の特集企画が決定。
2016年10月25日(火)~11月3日(木)まで。 会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木ほか。
PROFILE
■ 井原 敦哉(いはら あつや) 公益財団法人 ユニジャパン 東京国際映画祭 事務局次長
1968年、長崎県生まれ。1993年に明治大学を卒業後、株式会社ギャガ・コミュニケーションズに入社。パブリシティ、宣伝プロデューサー業務に従事。99年にアスミック・エース エンタテインメント株式会社に移籍、宣伝部長を務める。2007年に株式会社角川エンタテインメントに転籍し、宣伝部長として、ハリウッドのドリームワークス作品を手がける。10年に角川映画の宣伝部長、11年角川書店と合併し、映画営業局局次長兼映画宣伝部長に。12年公益財団法人ユニジャパンに出向、東京国際映画祭事務局次長に就任、現在至る。