Apr 05, 2017 interview

20%を割った『ひよっこ』が黒ひげを飛ばしてしまうのか?!常に「黒ひげ危機一発」の気分で挑むという朝ドラ舞台裏について、NHKドラマ部部長に聞いた【前編】

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朝ドラは毎日ダッシュである

 

──そのテクニックはまた、独特なものがあるんでしょうね。

それこそ岡田さんは、最初に書かれた朝ドラ『ちゅらさん』(01年)が終わったときに「朝ドラは半年のドラマで、長くて大変だ、と周りから聞いていて、マラソンのようなことを想像していたら、書き始めてみたら100本ダッシュだった」と回想していました。確かに、「毎日ダッシュ」のほうが朝ドラを断然言い当てているように思いますね。「長い半年のドラマ」という捉え方ではなくて、毎日1本ずつ観てもらうために、15分の間にどうドラマを作っていくか、というところに心を砕くドラマだと思います。

──大河ドラマはどうですか?

大河ドラマも1年間ありますけど、やはり50本の連続ドラマですね。

──やっぱり、「日曜日に一回ダッシュする」みたいな。

そうです、そうです。毎週ダッシュみたいな感じですけど、朝ドラのほうは毎日ダッシュだから大変かもしれません。

──15分という短い中にいろんなことを盛り込んでダッシュしきらなきゃいけないって大変ですね。

大変だと思います。朝ドラについてあまりよくわからないまま書き始めちゃうと、第1週分を90分ドラマのつもりで書いてしまう方が時々いて、ふと気がつくと、火曜日には主人公が出てきてない、なんてことが起こるわけですよ(笑)。

──主人公は毎日必ず出ないといけないんですか。

いけないわけではないですよ。もちろん例えば主人公の話が薄い回があってもいいのですが……例えば、火曜日だけ観る人もいるわけじゃないですか。そうすると「おや。今日は何の話だっけ?」みたいになっちゃうんですよ。話が進んでないから。主人公がいないことで話が進んでいるならいいですが、90分のドラマだと真ん中の15分ぐらいにちょっと一瞬気を抜く必要もあったりするじゃないですか。「ここで物事が起きて、ここで展開するんだけど、一旦、話が停滞して、ここから一気にスピードが上がります」みたいなやり方で朝ドラも作ったとき、たまたまその停滞部分が15分1話の間にぴたりとはまってしまうと、その回は本当に何も起きなくなっちゃう。だから「90分ドラマのつもりで書いたらダメです」というのは、時々ご注意申し上げることがあります。

──『ひよっこ』に関しては岡田さん3度目で慣れてらっしゃるから安心ですよね。

安心なんてとんでもありません(笑)。例えば朝ドラを2本書かれた脚本家はそれほど少なくないですが、その中でも2本目を当てた方はとても少ないんですよ。こんなふうに言うと誰かを名指しで非難することになりそうなのでお名前は出しませんが。でも調べればすぐわかることで……(笑)。乱暴に言って「朝ドラを2本ヒットさせる」というのは並大抵のことじゃないです。僕も今回、岡田さんに「3本目だと思わないで書いてください」とお願いしました。これまでの2本目がうまくいかなかった人たちがどうしてうまくいかなかったのか、僕なりになんとなく考えた結果、1本書き終わると様子がわかってしまうということでした。全体のペース配分とか、あるいは「こういうことがうまくいって、こういうことはうまくいかないらしい」ということが。それをわかって書き始めるとどうもダメな気がします。はじめて挑むときは、「これで大丈夫かな? これで大丈夫かな?」とか、「15分のペース配分がわからない」と思いながら、とにかく頭から順に書いて、できる限り内容を詰め込んでいくと、後半「ああ、しまった。後半ネタがない」という目に合うわけですよ。それを1本経験すると、2本目のときには「あとで足りなくなるから少し小出しにしていこう」などと思うのですが、そうすると観ている側からすると「なんか話がちっとも進まないな」となるかもしれない。そういう意味で、「全体のペース」や「受けるもの」がわかっていると慢心しないほうがいい。あと、例えば「自分の中ではこれはもうやったからやるまい」とか、そういう制限を設けない。とにかくこれが1本目のつもりで、もう一回全部つぎ込むつもりで書いてもらいたいとお願いして、岡田さんも「変なこと考えないで王道で書きますよ」と言ってくださったので、ああ、ちゃんと僕の心配はわかってくださったなと感じています。

 


 

黒ひげ危機一発ならぬ朝ドラ危機一髪気分で毎回作っている朝ドラ。『ひよっこ』は9作ぶりに初回が20%を切ってしまい、まさに危機一髪?いやいやまだまだ。
4月10日公開予定のインタビュー後編では、朝ドラ低迷期の話や、『ひよっこ』はなぜ1960年代高度成長期を選んだのか、朝ドラにおける時代や地域設定をどう考えているかなどについて伺います。

取材・文/木俣冬

 

 

プロフィール

 

遠藤理史 Rishi Endo

1965年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、87年NHK入局。現在、制作局第2制作センター・ドラマ番組部部長。携わった朝ドラは『君の名は』、『あぐり』、『ちゅらさん』、『風のハルカ』、『ちりとてちん』。その他、演出として大河ドラマ「元禄繚乱」金曜時代劇「ゆうれい貸します」ドラマ愛の詩「六番目の小夜子」などを担当。プロデューサーとして上記の「ちりとてちん」の他『ふたつのスピカ』、『お買い物』、『風に舞い上がるビニールシート』、『お葬式で会いましょう』や、『朝ドラ殺人事件』『大河ドラマ大作戦』などのパロディーふうな作品も手がけている。

 

文・木俣冬

 

文筆家。主な著書に「ケイゾク、SPEC、カイドク」(ヴィレッジブックス)、「SPEC全記録集」(KADOKAWA)、「挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ」(キネマ旬報社) 、共著「おら、あまちゃんが大好きだ! 1、2」(扶桑社)、「蜷川幸雄の稽古場から」、構成した書籍に「庵野秀明のフタリシバイ」、ノベライズ「マルモのおきて」「リッチマン、プアウーマン」「デート〜恋とはどんなものかしら〜」「恋仲」「IQ246~華麗なる事件簿」など。
エキレビ!で毎日朝ドラレビュー連載。 ほか、ヤフーニュース個人https://news.yahoo.co.jp/byline/kimatafuyu/ でも執筆。
現在、初めての新書を書き下ろし中。

otoCotoでの執筆記事の一覧はこちら:https://otocoto.jp/ichiran/fuyu-kimata/