アニメ界の師匠・押井守という存在
──夢をモチーフにした劇場アニメというと押井守監督の名作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を思い浮かべるアニメファンは少なくないと思います。かつては「押井監督の影武者」を自認されていた神山監督ですが、『ひるね姫』は押井監督の影響をまったく感じさせませんね。
そうですね。『攻殻機動隊』シリーズや『009 RE:CYBORG』は押井監督の存在を意識せずにはいられませんでしたが、今回は押井監督のことは考えずにやっていました。
──神山監督は押井監督の弟子みたいに語られてきましたが、実際には現場を共にしたことはないそうですね。神山監督にとって、押井監督はどのような存在なんでしょうか?
押井さんが手掛けていた『機動警察パトレイバー』シリーズの流れで、僕は『ミニパト』で監督デビューすることができ、「映画監督になる」という夢を叶えることができたわけです。僕にとって映画監督はどのように振る舞えばいいのかという具体的なモデルが押井監督でした。模倣してばかりではダメなんですが、最初は誰かを模倣することでしか作品を具体化していくことができない。そういう部分で押井監督から学んだことは大きいです。もちろん、押井監督以外のいろんな監督からも影響を受けています。当然ですが、宮崎駿監督や富野由悠季監督の作品も観ています。でも、その中でも押井監督の創作スタイルが自分に合っていたということでしょうね。う〜ん、スタイルという言葉は適切じゃないな。監督って実は肩書きでも職業でもなんでもないんです。ある種の精神状態を指している言葉だと僕は思うんです。シルベスタ・スタローンは俳優ですけど、監督作じゃない作品のときも監督然として現場で振る舞っていると思いますし、角川春樹さんもプロデューサーだったけど監督的精神状態の人だったとよく聞きました。結局最終的には、監督ですから。だから、「あいつ、監督っぽいな」と周囲が認めれば、その人は監督なんです。僕にとっては押井さんがいちばん監督らしい監督に見えていた。