レジェンド声優:平野文
インタビュアー:藤井青銅(放送作家/作家/脚本家)
- 藤井青銅
(以下 藤井): -
平野さんは『うる星やつら』のラムちゃんのような国民的アニメの人気キャラクターを演じるにあたり、プレッシャーのようなものは感じていないんですか?
- 平野文
(以下 平野): -
使命感はあります。でもそれはプロとしては当たり前。アニメのキャラは歳を取りませんよね。久しぶりに画面に登場した時、声も変わっていないねと思われなければなりません。そこは維持しなければならない。
でも、キャラが変わらないのだから声優も変わってはならないと律していると、こっちも変わらないんじゃないかと思います。
- 藤井:
-
それは凄い。でも人間である以上、歳を取って自然に声が低くなっていくのを止めるのは難しいのでは?
- 平野:
-
トレーニングをしている声優は声帯に筋肉が付いているんですよ。筋肉を鍛えるということは、使うということですよね。声の場合、それは毎日喋るということ。つまり私たち声優は、声帯を充分に鍛えた上でそれを維持することもしているわけです。
ちなみに声帯は人間の筋肉の中で一番最後まで若々しさを保っている部分だと言われています。さらに声優は普通の人よりも声量がありますから、きちんと意識さえしていれば、声が衰えて行くのをある程度は防げると思うんですよね。
- 藤井:
-
平野さんはもともとがDJというのもあるけれど、ナレーションなんかもけっこうやられてますよね。
- 平野:
-
私ね、自分の中で一番こだわっているのは“時間”だと思っているんです。あと、それから“裏方”であるということ。DJも声優も、決して表の仕事ではないですよね。その裏の仕事の中で、時間枠を決められて、そこにきれいに収めるということにすごくやりがいを感じるんです。
ラジオで曲紹介を15秒でやってくださいと言われたら14.5秒でまとめるし、ナレーションもフリートークも、声優のアフレコもそう。お嫁に行ったら魚のことを書きませんかって文章依頼されたけれども、あれも300文字とか枠がありますから、ラジオでしゃべっている時の思考回路で書きました。
そういう、“枠”の中で何とかするっていう作業がものすごく好きなんですよ。だから生放送が好き!
- 藤井:
-
そういうお話を聞くと、平野さんはDJなんだなって思わされますね。
- 平野:
-
だから声優でもあるんですが、演技がしたいというわけではない。自分なりに基礎はたたき込まれていると思うけれど、それはおいておいて、自分の声で何ができるのかを常に考えていましたね。
半年に1回くらいのペースで出ていた『うる星やつら』のオリジナルソングも、ラムちゃんを演じるというのではなく、自分の出せるどのタイプの声で歌ったら面白いか、なんて。今回は可愛らしい高校生風の声で歌ってみようとか、色っぽい女性の雰囲気でやってみようとか、そんなふうにして遊んでいたんです(笑)。
ですから、同時代の人たちと同じく子役スタートで声優になりましたが、その声優としてのあり方はほかの人たちとだいぶ違っているかもしれませんね。
- 藤井:
-
DJの仕事と比べて、声優の仕事が辛かったり、大変だと思ったことはありますか?
- 平野:
-
好きでやっていることなので、大変ってことはないですよね。ただ、ラジオのフリートークと違って、ちゃんと予習をしておかないと本番でほかの人たちに迷惑がかかってしまう。その緊張感はすごくあります。
あと、声優の仕事では演技をするわけですから、けっして素の平野文ではない。一つ違うところに踏み込むつもりでマイクの前に立つようにしていました。
(構成:山下達也 / 撮影:田里弐裸衣)
「古川登志夫と平野文のレジェンドナイト」 スペシャルトークイベント
平野 文(ひらのふみ)
1955年東京生まれ。子役から深夜放送『走れ!歌謡曲』のDJを経て、’82年テレビアニメ『うる星やつら』のラム役で声優デビュー。アニメや洋画の吹き替え、テレビ『平成教育委員会』の出題ナレーションやリポーター、ドキュメンタリー番組のナレーション等幅広く活躍。’89年築地魚河岸三代目の小川貢一(現『魚河岸三代目 千秋』店主)と見合い結婚。著書『お見合い相手は魚河岸のプリンス』はドラマ『魚河岸のプリンセス』(NHK)の原作にも。
藤井青銅(ふじいせいどう)
23歳の時「第一回・星新一ショートショートコンテスト」入賞。これを機に作家・脚本家・放送作家となる。書いたラジオドラマは数百本。腹話術師・いっこく堂の脚本・演出・プロデュースを行い、衝撃的デビューを飾る。最近は、落語家・柳家花緑に47都道府県のご当地新作落語を提供中。 著書「ラジオな日々」「ラジオにもほどがある」「誰もいそがない町」「笑う20世紀」…など多数。
現在、otoCotoでコラム『新・この話、したかな?』を連載中。