Jul 06, 2017 interview

映画『銀魂』で追求した“マンガ的リアル”とは?福田雄一監督ロングインタビュー

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福田監督の本棚のど真ん中

 

──最後に、「otoCoto」では愛読書について伺っておりまして。福田監督の人生で大切な本を一冊挙げていただければと思います。

『マカロニほうれん荘』全9巻、これしかない!小学生の頃に買って以来、大学進学と共に上京し、それから今に至るまで引っ越しを繰り返して本棚を整理しては、肌身離さず持っていき、今も家の本棚のド真ん中に置いている作品です。僕の笑いの原点であり、バイブル。何か困る度には読み返して、力をもらっている。それぐらい大切な作品です。

 

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取材・文/ますだやすひこ
撮影/名児耶洋

 

プロフィール

 

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福田雄一(ふくだ・ゆういち)

1968年7月12日生まれ。栃木県出身。1990年に劇団「ブラボーカンパニー」を旗揚げ、座長に加え、構成・演出も手掛ける。舞台活動と並行し、フリーの放送作家としても活動し『笑っていいとも!』などの超人気番組の構成を担当。00年代に入ると数多くのテレビドラマの脚本/演出も手掛けるようになり、11年に始まった『勇者ヨシヒコと魔王の城』(テレビ東京系)は爆発的な人気を獲得。2009年公開の『大洗にも星はふるなり』で映画監督デビューを果たすと、『HK 変態仮面』(13年)、『女子―ズ』(14年)とヒット作を連発。今秋10月には麻生周一原作コミックの実写化『斉木楠雄のΨ難』(17年)の公開が控えている。

 

レビュー

 

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マンガ原作映画……特に少年マンガは、荒唐無稽であればあるほど、より“リアル”へ近づく。その点で『銀魂』という荒唐無稽にさらなる輪をかけたハチャメチャな作品を、忠実に再現するために『アオイホノオ』(14年)『スーパーサラリーマン左江内氏』(17年)などマンガ原作作品を換骨奪胎させ続ける“邪悪な才能”を持った福田雄一監督は適任という言葉他ない。まず、原作ファンが真っ先に異を唱えてしまいたくなる、キャラクターの造形は、まさにコマからそのまま飛び出してきたかと錯覚するほどの完成度。小栗旬演じる銀時の瞳の死にっぷり、白目を剥いての鼻をほじる神楽(橋本環奈)、顔にかかりそうなほどの唾を飛ばす村田鉄也(安田顕)、高杉晋助(堂本剛)の妖艶さ、“まんま着ぐるみ”のエリザベス……。『HK 変態仮面』(13年)でも見せていたが、偏執的なまでのヴィジュアルへのこだわりと演出は、作品を愛していなければ作り込めない。この一点だけでファンは安心して映画『銀魂』の世界にドップリ浸かれる。さらには、『勇者ヨシヒコ』(11~16年)シリーズで培ってきた、“間”を大切にした会話劇の妙、唐突かつ無意味なギャグ展開、そして弛緩した空気からの急激な手に汗握る剣戟の豪快なアクションへの舵取りと描き方。原作者・空知英秋が大切にしてきたであろう『銀魂』のエッセンスが見事、福田雄一の作風とシンクロ。まさに福田雄一でしか成し得なかったであろう画作りになっている。途中に挟まれるオリジナル要素、銀時と源外(ムロツヨシ)、とあるゲストとのやり取りは、今作のハイライトの一つ。著作権の概念を遥かに飛び越した、際どすぎるギャグの応酬には、きっと空知氏も「してやられた!」と悔しがったはずだ。

映画『銀魂』

原作:空知英秋『銀魂』(集英社刊・週刊少年ジャンプ連載)
監督/脚本:福田雄一
出演:小栗旬 菅田将暉 橋本環奈 柳楽優弥 新井浩文 吉沢亮 早見あかり ムロツヨシ 長澤まさみ 岡田将生 佐藤二朗 菜々緒 安田顕 中村勘九郎 堂本剛
音楽:瀬川英史
主題歌:UVERworld『DECIDED』(Sony Music Records)
配給:ワーナー・ブラザース映画
2017年7月14日(金)全国ロードショー
©空知英秋/集英社 ©2017「銀魂」製作委員会
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/gintama-film/

 

 

 

原作紹介

 

「銀魂」空知英秋/集英社ジャンプコミックス

2003年、『週刊少年ジャンプ』で連載スタートした異色時代劇。宇宙人「天人」との戦争に敗れ去った人類は、天人の支配により活力を失っていった。ただ一人、侍の魂を持った男・坂田銀時は「万事屋」を開き、少年剣士・志村新八、戦闘民族の娘・神楽をお供にし、治安部隊・真選組、攘夷志士を巻き込んで架空の江戸を舞台に暴れ回る。原作者・空知英秋曰くジャンルは“SF人情なんちゃって時代劇コメディー”と表するように、基本は銀時を中心にしたメタ、パロディ、社会風刺と際どいギャグを多分に盛り込んだドタバタな日常劇。そして時にホロリとさせ、時に熱い気持ちを呼び起こす王道展開を織り交ぜる。まさにエンタテインメントな作品。基本は1話完結の短編で構成されているが、時に長編ストーリーも挟む。映画の元となった『紅桜篇』(コミックス11巻~12巻収録)は、初期の代表的エピソード。映画とは違ったストーリーを添加しているので、見比べてほしい。

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福田監督の愛読書

 

『マカロニほうれん荘』鴨川つばめ/週刊少年チャンピオン

1977年~79年の、およそ2年という短い掲載期間ながら、今なお語り継がれる天才漫画家・鴨川つばめが若干20歳で生み落とした伝説的ギャグマンガ。主人公・沖田総司が転校先の高校で出会った金藤日陽と膝方歳三のハチャメチャコンビが巻き起こす騒動に毎回巻き込まれる……と構成としてはオーソドックスなスラップスティックコメディなのだが、『マカロニ~』が革命的であったのは、ただコミカルな描写に終始しなかったこと。唐突なカットで畳みかける不条理展開、ふんだんに取り入れた他作品のパロディ、あらゆるカルチャーをミックスし、ポップアートの領域まで昇華させたこと。今作以降のギャグマンガ、ひいては笑いを志すクリエイターの全ては直接的/間接的に『マカロニ~』の影響下にあるとすら言える。福田雄一作品の編集方法、第四の壁の突破、パロディネタからは『マカロニ~』の強い影響が伺える。また、主要登場人物の名前が新選組隊員から命名されており、福田雄一監督と空知英秋の出会いは、必然だったのでは?とすら思える。

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