Jul 06, 2017 interview

映画『銀魂』で追求した“マンガ的リアル”とは?福田雄一監督ロングインタビュー

A A
SHARE

 

gintama-film_07

 

コスプレ感……とは、なんですか?

 

──『HK 変態仮面』(13年)、今年公開の『斉木楠雄のΨ難』(17年)と、福田監督が手がけた原作付き作品の特徴の一つに、“忠実な再現ぶり”があるかと思います。今作も万事屋の内装や端々にある小道具に至るまで、原作ファン全員が納得する細部へのこだわりを見せています。中でもキャラクターたちの、ビジュアルの完成度はさすがでした。

ありがとうございます。メインビジュアルが出来た時、ネットで「“コスプレ感”まるだし」という声が挙がったのを見たんですよ。……僕ですねぇ、“コスプレ感”という言葉の定義がよくわからなくて。マンガ・アニメ原作の作品が映像化されると「“コスプレ感”がすごい」という感想が、よく飛び交うじゃないですか。でも、実際に原作ではそうした恰好をしているわけですよ。忠実に再現するためには、そのまんまの恰好を用意する他ないんです。

──はい(笑)。

『ヨシヒコ』も、ドラゴンクエストのパロディがやりたいから、ドラクエ的な恰好を用意したわけで。『銀魂』は衣装、髪型などキャラ造形を忠実に再現したのですが、それはどうなると“コスプレ感”と言われるようになるんでしょうね?

 

gintama-film_08

 

──衣装を着ているのか、着せられているのか。その違い……でしょうか。

なるほどねぇ。僕が思うに、マンガから現実に飛び出た!となれば、二次元に近づけるかを考えないといけないはずなのに、映画を作る際にマンガそのままを形にすることを“恥ずかしい”と考えて、捻じ曲げ中途半端にリアルを持ち込もうとするから“コスプレ”と文句を言われると思うんですよ。僕は、マンガそのままを形にすることになんの恥ずかしさも躊躇いがない。だいたい原作自体が“リアルさ”を必要としていない世界観なわけで。リアリティの有無は、僕、完全に監督の個人的判断だと思っているタイプで。ならば、僕が作る作品に「リアリティ」はいらない。違和感も含めてマンガにある形をそのまま忠実に再現すること、それこそが一番重要だと思っています。

 

gintama-film_09

 

写実的であるほど、マンガ映画はウソになる

 

──造形はもちろん、俳優陣の演技も、キャラクターがそのまま憑依したかのような“なり切りぶり”でした。

実はそれこそが狙いです!現場で全員が喜びの声として挙げたのが「……似たねぇ!」という言葉でしたから。

──“似る”が喜びの声なんですね(笑)。

菅田君なんて「監督、今の似ましたねぇ!」と、カットがかかる度にハシャギまくってましたよ。だって考えてもください、菅田将暉があの志村新八、あのメガネにソックリになるんですよ!? それが何より面白いでしょ。一つ印象深いエピソードがあって。『カブトムシ篇』の初日が信じられないぐらいクソ暑い日で、汗ダラダラになりながらの撮影になったんです。中でも土方(十四郎)役の柳楽(優弥)君は汗かきだから、テイクを重ねれば重ねるほど、セットした髪の毛が汗でペシャンコになっていく。でも、土方のV字前髪とボリュームのある髪型は画としてマスト。そして何より俺も、柳楽君も土方に似せたくて仕方がない。どうしよう?と思っていたら、その日の撮影終了後、柳楽君が「土方に似せたいので、ウィッグの用意をお願いします」と陳情に来たんですよ。そう言われちゃあ!と、急遽用意してもらいました。なので、土方は前髪の辺りだけウィッグで盛っています。そうすることで、特徴的なV字前髪を完璧にキープできるようになったんですよ。

 

gintama-film_10

 

──激しいアクションをしても髪型が崩れないのは、見事にマンガ的で良かった。柳楽さんもモチロン……。

「似ましたねぇ!」と大喜び(笑)。姿形から演技に至るまで、みんな似せたくて仕方がなかったから大成功でした。キャラに“似る”ことが役者、スタッフ全員の喜びという、まぁ不思議な現場でしたよ(笑)。ただ、演技面では唯一おまかせの人が一人いました。(佐藤)二朗さん演じる武市変平太です。空知さんが現場に遊びに来た時に、ちょうど武市のシーンの撮影だったんですが「絶対に原作を意識しないで。いつもの二朗さんでお願いします!」と言いながら帰って行ったんですよね。その意図を組ませていただき、二朗さんだけは徹底的に自由気ままにやってもらいました。でもスンナリと溶け込んでしまって。いやぁ、不思議ですよね(苦笑)。

 

gintama-film_11

 

──武市の存在自体が福田監督作品のキャラに存在していそうですからね(笑)。キャラクターはもちろん、世界観の描き方も、非常に良い意味でマンガ的で。実在の人物が演じていながらも、まるでマンガ・アニメを観ているかのような感覚に陥りました。

リアリティではなく、ちゃんとした“生きた夢物語”を作れたなと。中でも、原作付きの作品を映像化するに辺り、一番僕がこだわりたかった画が作れたシーンがありまして。それはCMでも使われている「宇宙一バカな侍だ!」の、銀ちゃんが敵戦艦に殴り込みをかけるシーンの“空”の描写。

──“空”……ですか?

はい。原作では、銀ちゃんが甲板に立った瞬間に曇天から一筋の太陽光が差す、まさにヒーロー登場!な、一番カタルシスを感じる場面です。もちろん実際の背景を使えませんので全てCGでの製作なのですが、最初CG制作の方が作ってくれた空が、ものすごくリアルだったんですよ。本当に素晴らしく見事な空。でも、逆にそれでは“ヒロイック”ではないな、と思ったんです。確かに美しいし、雲から晴れへと変わっていく描写はまさしく写実的で。ただ写実的であればあるほど、反ってウソっぽく見えてしまって。マンガを実写化するのであれば、空もマンガ的である方がシックリくる。そう思い“劇的”な空に描き直していただきました。完成品を観て“劇的”な画作りに振ったおかげで『銀魂』らしさが出たなぁと改めて思いました。

 

gintama-film_12