Jul 06, 2017 interview

映画『銀魂』で追求した“マンガ的リアル”とは?福田雄一監督ロングインタビュー

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2003年の連載開始以来、コミックは販売累計5100万部を突破。テレビアニメメシリーズは約10年に渡り放送、さらに二度の劇場アニメ化……と、多岐に渡るメディアミックスも展開し、連載14年目を迎えた今なお驚異的な人気を博し続けている『銀魂』。そして今夏、小栗旬ら豪華キャストを迎えて初の実写映画作品が公開となる。手掛けるのはドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズで知られる福田雄一。“リアルは不用”をモットーにかかげる福田監督は、いかにして映像化不可と思われた『銀魂』を、現出させたのか? 福田流“マンガ映画”にかけるマインドをインタビューを通してここに紐解く。

 

“ふざけたテンション”でなければ『銀魂』は作れない

 

──実写映画化を福田雄一監督が手がけるとの決定を聞いて、多くの『銀魂』ファンは溜飲を下げたはずです。

そうであってほしいです(笑)。どこかで「監督が福田雄一と聞いて一斉に拳をおろす銀魂勢」という記事が出たのを見たことがあるので、そこまで言われたのに、後々思っていたのと違う!と言われても、困ったものですから(笑)。僕自身はオファーをいただくまで、自分が『銀魂』を映像化するなんて考えにもなかったことでして。こうして携われたのは原作者の空知(英秋)さんの後押しのおかげ。空知さんは実写化の話以前から僕が監督した『勇者ヨシヒコ』シリーズ(11年~16年)、『アオイホノオ』(14年)をご覧頂いてくれていたそうで。プロデューサーさんが実写化にあたり僕でどうだと空知さんに提案してくれた際、この人が「監督ならできるかもしれませんね」と判を押してくれたんですよ。それは心強かった。

 

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──空知先生は、今まで実写化を頑なに拒んでいたと伺っています。福田監督だからこそOKを出した、というのは心強いですよね。

制作発表の際には「『勇者ヨシヒコ』を見た時、嫉妬からこのオッさん死んで欲しいなと思った。邪悪な才能を抹殺するにはいい機会」というコメントまで送っていただいた。この援護射撃にファンの方は救われただろうし、何より僕も助けられ、背中を強く押してもらいました。

──荒唐無稽な世界観の構築、随所に挟まれるメタネタ、個性が立ちまくったキャラを忠実に描ききらないといけない。しかも超人気作品……と、かかる期待は相当なものだったと思います。

撮影前日はさすがに緊張しました。ただ「どうしたもんか」と、手探り状態だったということは一切ありません。制作に入るまでに改めて『銀魂』も、今回の題材であり『紅桜編』も死ぬほど勉強しましたので、画作りに関しては脳内にはハッキリとしたものが浮かんでいましたから。一つ、撮影にあたり自分に言い聞かせていたのは、『ヨシヒコ』と『アオイホノオ』を撮った時と同じスタンスで、撮影に臨むということ。『ヨシヒコ』『アオイホノオ』を観て「福田雄一なら」と、空知さんは僕を選んでくださったわけです。超大作でありますし、高いバジェットもいただいた。だからといって“ザ・映画的”なものを撮るのではなく、空知さんが面白いと思ってくださった僕のスタンスを保たないと、きっとどれだけ真剣に作ったとしても、空知さんが観て面白いと思うような作品にはならないなと思いまして。そのことだけは絶対にブレないようにと、編集作業が終わるまで意識し続けました。いつもの、良い意味での“ふざけたテンション”でいかないと、絶対に『銀魂』は成功しないなぁと。

 

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──原作にある会話劇の面白さから、急にシリアスなドラマへと転じる緩急を再現するには、生真面目な作りをすればするほど、解離していきますからね。

まさしく! 身構えてシリアスを突き詰めすぎると、絶対に原作ともオリジナルとも形容できないような、変な作品になります。僕自身意気込まず、とにかく肩の力を抜いて、いつもの作り方でいきました。銀時役の小栗君も僕のやり方を面白がってくれただけでなく意図も見事汲んでくれたので、シリアスなところはバチっと決めてくれて、「こんなことするの!?」というフザけ場面ではバッチリと壊れてくれました。「このふり幅が『銀魂』の一番の魅力だよね」と、二人でずっと話しあっていたぐらい。結果、この場面の後に、この場面これかよ!? という『銀魂』らしい、デコボコな画作りができました。『銀魂』特有のやり取りが、画になると「こうなるのか」と、作った僕自身ちょっとした感動すらありましたよ(笑)。

 

『紅桜篇』は『銀魂』の要素全てが詰まっている

 

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──初期を代表する長編エピソード『紅桜篇』を盛り込まれたのは、福田監督からの提案だったのでしょうか?

はい、監督すると決まった時に『紅桜篇』で行きたいと話しました。理由は二つ。一つ目は『銀魂』には数々のエピソードがありますが、“劇場でちゃんと見応えがある話”を選ばなければいけないという大切な要素がありました。そして、映画となると『銀魂』という作品をファンの方はもちろん、知らない人たちにも一律同じ値段を払って観ていただくわけです。足を運ぶ全ての方々に、鑑賞後「『銀魂』って、面白いね」と言ってもらえるような作品にしなければいけない。数ある『銀魂』のエピソードの中から、キャラクターの立ち方、笑いと涙と熱さというあらゆるエッセンスをシッカリと押さえて、エンタテインメントしている話を選ぼうと思ったら、『紅桜篇』がベストだなと。それが一つ。二つ目は今のCG技術を取り巻く事情や予算……いわゆる物理的な部分でも『紅桜篇』がベストだと。

 

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──エピソードによっては、近未来色が濃いものもあります。そうなると、画作りからCG過多な作品になりかねません。

『銀魂』の良さは「万事屋」が持つノンビリとした雰囲気と生活感と、日常を逸脱したSF感のギャップにあると思うんですよ。CGでガチガチに世界を作り上げるというのは、やっぱ違和感があるなぁって。普通と違和感の境目が違和感なく一番混ざり合っているのは、『紅桜篇』なんですよ。あと『紅桜篇』は対決構造がシッカリとしている。初めて観る人でも、この人が良くてこの人が悪い!というのが、一目でハッキリとわかるじゃないですか。そうした人物の背景描写に時間をとられなくて済むのも、活劇を撮る際には助かりました。