- 古谷:
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当時はとにかく怖かったし、緊張しましたよ。あの現場には、加藤精三さんと、山崎あきらさんと、怖い「とうちゃん」が2人いるような感じでしたね(笑)。しかも、自分が大量にNGを出すことで、ほかの大ベテラン陣の皆さんにも迷惑かかるわけじゃないですか。本当に申し訳なさで一杯でした。 
- 平野:
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自分だけが足を引っ張っているって? 
- 古谷:
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そうですね。でも山崎さんは、加藤精三さんら、ベテラン陣にも同じようにダメ出しをするんですよ。もっとも今にして思えば、あれはまだ若かった僕に、「お前もベテランも役者としては同じ立ち位置なんだよ」ってことを教えるために、つまり僕が萎縮しないようにやってくれたんじゃないかって気もするんですけどね。 
- 古川:
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それをまた、大人の俳優陣もわかっていたのかもしれないね。暗黙の了解というか。 
- 平野:
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そうした演技指導の中で今でも忘れられないものはある? 
- 古谷:
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まず教わったのは「とうちゃん!」の言い方かな。作中、飛雄馬はさんざんこのセリフを言うわけですよ。それに対して、子供の頃は「とうちゃん!(↑)」って語尾を上げ、大人になったら「とうちゃん(↓)」って語尾を下げろと教えられました。それで年齢差を表現できるんだって。そういうテクニックがあるんだって感心しました。 
- 平野:
- 
逆に会心の演技ができたなってシーンはどこ? 
- 古谷:
- 
花形満が、大リーグボール1号を鉄バットと鉄球の特訓で打ち崩したあと、身体がボロボロになって倒れ、担架で運ばれていくシーン。打たれた飛雄馬が花形のもとに駆け寄って、自分の球を打つためにそこまでしてくれるのかと感動し、「打たれて本望、よくぞ打った!」と号泣するんです(第83話 『傷だらけのホームイン』)。そこは、自分自身感動していたし、多感な時期だったこともあって、飛雄馬になりきって演じましたね。滝のような涙を流して。 
- 古川:
- 
万感の想いを込めて演じるわけだ。 
- 古谷:
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涙で台本が読めなくなっちゃうんですよ(笑)。このシーンに限らず、どのシーンも全部そんな感じでした。でも、だからこそ『巨人の星』は人の心を打つような作品になったんだと思います。 
- 古川:
- 
まさに「全力投球」だよね。 
- 古谷:
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だからあのアニメは口パクとか合ってなくてもOKだったんですよ。気持ちがちゃんと込められていればそっち優先。今見直すと、本当に全然合ってないんだけど、それで良いんだって。 
 
構成・文 / 山下達也 撮影 / 根田拓也

古谷徹(ふるやとおる)
7月31日生まれ、神奈川県出身。青二プロダクション所属。「巨人の星」では作中年齢に近い星飛雄馬を15歳の古谷が熱血に演じ、大きな反響を引き起こす。出演している主なアニメーション作品には、「機動戦士ガンダム」(アムロ・レイ役)、「ドラゴンボール」(ヤムチャ役)、「聖闘士星矢」(ペガサス星矢役)、「美少女戦士セーラームーン」(地場衛 / タキシード仮面役)、「名探偵コナン」(安室透役)、「ONE PIECE」(サボ役)など多数ある。

古川登志夫(ふるかわとしお)
7月16日生まれ、栃木県出身。青二プロダクション所属。1970年代から活躍を続け、クールな二枚目から三枚目まで幅広い役を演じこなす。出演している主なアニメーション作品には、TVシリーズ「機動戦士ガンダム」(カイ・シデン役 1979~80年 テレビ朝日)、映画・TVシリーズ「うる星やつら」(諸星あたる役 1981~86年 フジテレビ)、映画・TV「ドラゴンボール」シリーズ(ピッコロ役 1986~ フジテレビ)、映画・OVA・TVシリーズ「機動警察パトレイバー」(篠原遊馬役 1989~90年 日本テレビ)、映画・TV「ONE PIECE」(ポートガス・D・エース役 1999年~)など多数ある。

平野文(ひらのふみ)
1955年東京生まれ。子役から深夜放送『走れ!歌謡曲』のDJを経て、’82年テレビアニメ『うる星やつら』のラム役で声優デビュー。アニメや洋画の吹き替え、テレビ『平成教育委員会』の出題ナレーションやリポーター、ドキュメンタリー番組のナレーション等幅広く活躍。’89年築地魚河岸三代目の小川貢一と見合い結婚。著書『お見合い相手は魚河岸のプリンス』はドラマ『魚河岸のプリンセス』(NHK)の原作にも。
 
             
     
     
     
     
     
     
    