フランスで大ヒットした『あしたは最高のはじまり』のユーゴ・ジェラン監督と、『エール!』の製作陣が再タッグを組んだ最新作『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』。
フランスの権威ある映画サイト「ALLOCINE」の、2010年代のラブコメ映画ランキングで、名作『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』を抑え、堂々の1位を獲得した本作が、5月7日(金)より全国順次公開中だ。
それを記念し、otocotoでは人気の映画パーソナリティ&ライターの女性3人による座談会を実施!本作についてはもちろん、作中でも影響が見て取れるハリウッド名作ラブコメから、最新の映画事情まで、「ラブコメ&ラブストーリー映画愛」をたっぷり全3回にわたって掲載する。
今回はいよいよ最終回!往年の名作ラブコメとの共通点から本作のストーリーを掘り下げてお届けする。
前回までの座談会記事はこちら
『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』公開記念!映画パーソナリティ&ライターによるラブコメ愛を語る会【第1回】
『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』公開記念!映画パーソナリティ&ライターによるラブコメ愛を語る会【第2回】
◆出演者
奥浜レイラ(映画・音楽パーソナリティ)
1984年 神奈川県出身。情報番組のレポーターを経て、映画のプレミアなど舞台挨拶、トークイベントの司会やテレビ・ラジオの音楽番組でMCを務める。
赤山恭子(映画ライター/インタビュアー)
エンタメ誌編集、ハリウッドメジャー映画のディストリビューターを経てフリーに。映画監督、俳優など年間延べ300人以上にインタビュー、各媒体で掲載。レギュラーでは、VOGUE GIRLにて最新レコメンドムービーコーナーを担当中。
DIZ(映画ライター/編集者)
主にSNSで映画の素晴らしさを伝える活動をしている映画ライター・編集者。映画とファンをつなぐメディア「uni」(@uni_cinema)にて多数映画イベントを主催。常に幅広いジャンルの映画をチェックしている。
―ユーゴ・ジェラン監督は本作について、『恋はデジャ・ブ』(1993)や『ノッティングヒルの恋人』(1993)のほか、『ラブ・アクチュアリー』(2003)や『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』(2013)をはじめとしたリチャード・カーティス作品など、様々な作品から影響を受けていると語っています。そういった作品や、ハリウッドの往年のラブコメと共通点を感じたところはありますか?
赤山:自然に見せ場を作っているところは、数々の名作を意識しているのかなと思いました。
DIZ:水の中でのラブシーンは正にそうでしたよね!
赤山:ロマンチックでしたよね!でも、ただ名作をなぞっただけという印象は受けなかったですね。
―ジェラン監督は、本作の主人公・ラファエルと往年の名作ラブコメの主人公との共通点について、『恋はデジャ・ブ』のビル・マーレイの演じた役も最初は良い人ではなく、 『ハート・オブ・ウーマン』(2000)のメル・ギブソンの役も、 他人には理解しづらい行動をとるけれど結局憎めないチャーミングさがあり、そうした魅力がラブコメの主人公には必要と語っていました。
赤山:あまりメジャーな作品ではないんですが、『モダンライフ・イズ・ラビッシュ ロンドンの泣き虫ギタリスト』(2017)という映画がすごく好きで、ちょっと共通点を感じました。その主人公はあまり良い人ではなくて、自己中心的なんですよ。でも、彼女に振られて初めて色々なことに気付いていくんです。音楽によって気付かされるシーンもあって、ラブコメの特徴につながるところなのかなと思いました。「ラブセカ」でジェラン監督が意識された映画ではないかもしれないですが。
DIZ:『恋はデジャ・ブ』と通ずるかなと思ったのは、ビル・マーレイが演じる主人公が「あなたが愛しているのは自分だけ」って言われてしまうところですね。「正に途中までのラファエルじゃん」っていう。その上、自分のことだけではなく相手のことを考え、愛を注ぐことができるようになったときに、人生が前向きに変化していく話だから、かなり影響を受けているんだなって感じました。
奥浜:他のタイムリープものからも影響を受けてそうですよね。
DIZ:『エターナル・サンシャイン』(2004)とか、『バタフライ・エフェクト』(2004)っぽさも感じましたね。
奥浜:監督が意識したとおっしゃる通り、「アバウト・タイム」のエッセンスも確かに感じられましたね。それでも焼き直した感じがなく、新鮮に観られるってやっぱりすごいことですよね。「男性を支える女性」という本作のラファエルの目線で観ると、「才能のあるオリヴィアがあなたをサポートする側に回っているんだけど、お互いに輝かなくていいんですか?」と、不意にこちら側に訴えかけてくるところがすごく現代っぽいなって。
DIZ:そこは『マリッジ・ストーリー』(2019)にも通ずるところですよね。スカーレット・ヨハンソン演じる才能のある妻が、旦那さんの成功のために自分の夢を我慢していたけれど、結局我慢できずに離婚を選ぶっていう作品ですし。
赤山:確かに、ダーク版の「ラブセカ」…(笑)。
―『マリッジ・ストーリー』は、DIZさんがおっしゃった『恋はデジャ・ブ』も含め、アダム・ドライバーの演じる役が自分勝手なキャラクターという点も、本作の主人公のラファエルと共通していますよね。
奥浜:<もう一つの世界>に迷い込んだラファエルは、自分が人気作家だという世界線のまま職場である学校へ行くので、同僚に気安く声をかけられて、「こんな有名人を愛称で呼ぶなんてあり得ない」と思ったり(笑)。
赤山:出版社から追い出されたりもしましたよね。
―人気作家として肩書きがないと、すごく痛々しく映るんですよね。
奥浜:有名になったことで謙虚さがなくなり、裸の王様になってしまったことを客観的に見せられるから、その痛々しさがこちらにも突き付けられるというか、「自分も気をつけなきゃいけないな」と思う方もいるでしょうね。
赤山:誰も言ってくれないですもんね、「今調子に乗ってるから気を付けたほうがいいよ」って。もしパートナーにそう言われたとしても、「うるさいな!」と思うことも現実的にはあるだろうし…。
奥浜:ラファエルもそうでしたよね。本作は、定期的に観直した方が良いですよね。人と人との関係性において大事なことや、謙虚さを忘れてはならないみたいな色々なメッセージが込められているので。
―最後に、改めて本作の見どころやより楽しむためのポイントなどを教えてください。
赤山:ラファエルが相手への執着心から相手を思いやる気持ちを取り戻していく移り変わりに注目して欲しいですね。あとは、二人がレストランでディナーをするシーンでは、ラファエルが傷つきながらも好きっていう気持ちを噛みしめるんですが、その気持ちを一緒に味わい楽しめることが本作の醍醐味の一つなのかなと思いますね。
奥浜:観る人の置かれている状況によって、見え方が変わる映画だと思います。人によっては、「ラファエルに学べ」ではないですが、教訓になるような映画じゃないですかね。家族への接し方に悩んでいるお父さんにもぜひ観てもらいたいな、と思いますね(笑)。
DIZ:『ミッドサマー』(2019)の時は「別れたいと思っている相手がいる人におすすめ」って言ったんですけど、本作は逆に「別れたくない恋人やパートナーがいる人におすすめ」かなと思いますね。やり直したいと思っている人と一緒に観に行くと、情熱が復活するかな。『ミッドサマー』とは逆ですね。
―『”逆”ミッドサマー』ですね(笑)
DIZ:ラブコメが苦手っていう方もいると思うんですが、色々なジャンルや要素が入ってるので、その分多くの方に楽しんでもらえるかなと思います。
奥浜:ラファエルと親友のフェリックスとの、でこぼこなバディもののコメディ要素も結構ありますもんね。あとは、大人のカップルやご夫婦にも観てほしいです。付き合いが長くなると、一緒に映画に行くこともなくなると思うので。
赤山:特に男性に観てほしいかも。
奥浜:ラストは解釈が観客にゆだねられているので、観終わってから語り合うのも楽しい映画だと思います。
(おわり)
エンターテイメント作品そのものを楽しむことはもちろんだが、鑑賞後に”個人の経験“や”フェイバリットな映画”で作品を語ること、それ自体も素晴らしいエンターテイメントだと感じることができた座談会だった。本作で描かれているのは普遍的なテーマでもあり、だからこそ多くの人を語りべにすることができる。それが本作が持つ魅力の根幹なのかもしれない。
コロナ禍という未曾有の体験を強いられている現在、重苦しい時代から逃れることは叶わないが、映画館で少しのあいだは遮り、また生きる活力をもらうことはできる。パートナーや友人と、ぜひ本作を楽しんで頂ければ。そして時間があれば<自分たちだけの座談会>を楽しんでもらえればと思う。もちろん感染対策はしっかりとして。
『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』絶賛上映中!
高校時代に一目惚れをして結婚した、ラファエルとオリヴィア。結婚10年目を迎え、ベストセラーSF作家として多忙な日々を送るラファエルと小さなピアノ教室を開くオリヴィアは、すれ違いの生活が続いていた。そんなある日、我慢の限界に達したオリヴィアがラファエルに想いをぶつけると大喧嘩に。翌朝、見覚えのない部屋で目覚めたラファエル。そこは、自分がしがない中学教師で、オリヴィアは人気ピアニストとして活躍する、立場が逆転した<もう一つの世界>だった。そして、その世界のオリヴィアはラファエルを知らなかった…
監督:ユーゴ・ジェラン『あしたは最高のはじまり』 キャスト:フランソワ・シビル、ジョセフィーヌ・ジャピ、バンジャマン・ラヴェルネ
配給:シンカ
提供:シンカ、フラッグ、ハピネット
© 2018 / ZAZI FILMS – MARS CINEMA – MARS FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 3 CINEMA – C8 FILMS
絶賛上映中!