漫画界の神、手塚治虫の永遠の名作「火の鳥」。今までアニメ化されたものも多い中、地球の未来と宇宙の運命を描いた「望郷編」が初の映像化としてスクリーンにお目見えする。『火の鳥 エデンの花』は、地球から遠く離れた惑星に降り立った男女の運命と種を残す意味を観客に投げかける壮大なSF映画。STUDIO4℃のスタッフによるドラマティックな世界に声の息吹を吹き込むのは、宮沢りえ、吉田帆乃華、窪塚洋介、イッセー尾形ほか。今回は惑星に降り立つカップルの男性、ジョージを演じた窪塚洋介さんにお話を伺います。
―― 今回、製作された『火の鳥』の映画版とディズニープラス版では少し内容が違います。2つに分けたことも凄く斬新でした。
手塚先生が生み出した「火の鳥」は、とても人気で原作からアニメ、小説(桜庭一樹)まであって「火の鳥」自体に色々なバージョンがあるんですよ。そういう意味でも色々な表現が可能なのではないかと思います。読んだ人の数だけ解釈があるというか‥‥。【マンデラエフェクト】(事実と異なる記憶を不特定多数の人が共有しているインターネットスラング)って知っていますか。過去の記憶と実際の記録がかみ合わない事例のことをいうのですが、「火の鳥」ってマンデラエフェクトぎみになっちゃうんですよね、「え、そんな話だった?こんなラストだった?」みたいな感じに(笑)それが面白いですよね。だからこんな作り方もありなんだと思います。
―― 丁度コロナ禍の頃、アニメ「火の鳥」シリーズを見直したりもしていました。その時に“手塚治虫作品がいつまでも愛され続ける理由はなんだろう?”と思ったんです。窪塚さんはどう思われますか。
それだけ我々や地球の未来を憂いていて、本当に真剣に“どうにかしなきゃ”という念みたいなものが手塚先生の作品にはあって、今もその思いが生きているんじゃないかって思っています。それが観る人に伝わるからかもしれないですよね。
―― そうかもしれませんね。『火の鳥 エデンの花』はそれが強く出ていますよね。
「火の鳥」シリーズの中に、AIに統治されている世界を舞台にした話があって、その話に登場するロボットは感情を持ち始めていて、そして人間は1回死んでも1回復活できるって設定なんです。やがてロボットは人間に成り代わっていき、ロボットが人間になっていく、ロボット個人として認めていくみたいな話があるんですよ。でもその話に「答え」はないんです。「答え」は読者に委ねる感じです。多分、手塚先生も「答え」を出せなかったのかもしれません。「火の鳥」シリーズには同じように「答え」が示されていない作品も素直に入っています。そこが魅力であり、“イイ”んですよね。
―― 私は今回の『火の鳥 エデンの花』を、特に若い人達に観て欲しいと思いました。
そう思いますね。今、どんどん時代が軽くなっているような印象を持っています。それは悪い面だけではないのですが‥‥、もう少し、自分の命や人生について、この映画にある死生観みたいなエッセンスが入れば、その軽さがより意味を持ってくるのではないかと思うんです。それを知った上で初めて“軽やかに生きて行けるのではないか”という気もしています。
―― 窪塚さんは声優をやるに当たってもう一度「火の鳥」シリーズを買って読んだそうですが、主に惹かれる漫画のジャンルやテーマがあれば教えてください。
原泰久さんの『キングダム』は今も買って読んでいますよ(笑)。とにかく物語が熱いんです。【熱い】は1つのテーマですね。泣いちゃうとかも。そういうカンフル剤というか清涼剤みたいな感じの漫画も大切ですよね。あとは、自分がそもそも好きな古代文明の話とか、遺跡、民俗学をテーマにした作品にも惹かれますね。
他には、たーしさんの『ドンケツ』。福岡のヤクザを描いた漫画なのですが、原作者のたーしさんのお兄さんが和彫りの彫師らしく、その描写が凄くリアルなんです。登場する主人公:沢田政寿(ロケマサ)はぶっ飛んでいて、その描き方はまさに漫画っぽいんだけど、起こる出来事や設定のディテールが本当にリアルで、そういう意味で面白い。そこを破天荒な主人公がどんどん突き進むから、すごく没入できるんです。