―― 撮影で一番苦労したシーンはどこですか。
一番最後のくだりです。ダンスを自分で空振りするシーンは、実は台本には描かれていない現場で追加された部分なんです。城定監督が途中で「やってみよう」と言い出して、それを自分の中に落とし込むのに苦労しました。ラストへ向かうシーンってどうしても“こういう気持ちを込めたい、あんなふうに演じた”と構えがちになってしまうんです。その気持ちとの折り合いをどう付けるかというか、自分の中でどう処理するのかに手こずりました。
―― 【映写技師:谷口章雄】役の渡辺裕之さんとのシーンですね。
そうです。廊下の狭い所でずっとグルグルと回っているところです。踊りだけで1分以上やっていると思います。
―― 美しくて切なかったです。
そうですね。実は凄く目が回るんです。渡辺さんも「目が回るよな」と言っていて、あの部分だけ何回も何回も撮りました。この作品の中で一番テイクを重ねて撮ったシーンだと思います。
―― 渡辺さんとは何かお話をされましたか。
本当に誰よりも熱心で、誰よりも真面目。真摯に役、作品、お仕事に向き合っているという印象を持っています。ダンスの練習も凄くやっているし、台詞の合わせもずっとやっているんです。本当に真面目な方だと思いました。
―― あのシーンはまるで『ブエノスアイレス』(公開:1997年)のオマージュにも思えました。あと映画には『ニュー・シネマ・パラダイス』(公開:1989年)のエッセンスも入っています。『カサブランカ』(公開:1946年)の名台詞も出てきたり、様々な映画を思い出しました。
確かにインスパイアされますね。広く映画愛で言ったら『ニュー・シネマ・パラダイス』だったり、フェリーニの『8 1/2』(公開:1965年)のような気もします。
―― ちなみに監督に挑戦したいという気持ちはありますか。
なくはないですけど・・・・、機会があれば。映画は監督のものとも言います。僕もそう思っています。監督は楽しいとも思いますし、でも大変だとも思います。
僕は『シュアリー・サムデイ』(公開:2010年)という作品で監督の小栗旬が本当に大変そうにしているのを目の前で見ていました。その時、自分が思っている以上に監督は大変だと感じていましたし、(小栗)旬本人も「大変だ」と言っていました。
―― 人生で大切にしていることは何ですか。
今は映画に出るとか、ドラマに出るということが、こんなにも楽しくて、こんなにもやりがいのあることだということを感じています。そのことに日々の全てを捧げるということが、より一層出来たらと思っています。
原点回帰みたいな感じです。キャリアを重ねていく中で失われていった感情や感覚みたいなものをもう一度感じ取って、すくい取って、今は大事にしている時期だと思います。また(小栗)旬や(鈴木)亮平といった仲間たちと共演したい、それは本当に思っています。
小出恵介さんとは『パッチギ!』の舞台挨拶の時からよくご一緒していて、主演作『シュアリー・サムデイ』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭で特別招待作品として上映された際、記者会見や舞台挨拶も取材に行ったりしていたんだと思い出しました。昔から笑顔で丁寧に話す小出さん、本作『銀平町シネマブルース』の舞台挨拶でも、共演した藤原さくらさんや日高七海さんに話しかけ舞台裏でもステージでも終始和やかな雰囲気を作り上げてくれていました。今まで当たり前に映画の舞台挨拶で会えると思っていた小出さんとまたご一緒できたこと。なんだか胸いっぱいになりました。
取材・文 / 伊藤さとり
写真 / 奥野和彦
かつて青春時代を過ごした町・銀平町に帰ってきた一文無しのの青年・近藤は、ひょんなことから映画好きのホームレスの佐藤と、映画館“銀平スカラ座”の支配人・梶原と出会い、バイトを始める。同僚のスタッフ、老練な映写技師、個性豊かな映画館の常連客との出会いを経て、近藤はかつての自分と向き合い始めるが・・・・。
監督:城定秀夫
脚本:いまおかしんじ
出演:小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、日高七海、中島歩、黒田卓也、木口健太、小野莉奈、平井亜門、守屋文雄、関町知弘(ライス)、小鷹狩八、谷田ラナ、さとうほなみ、加治将樹、片岡礼子、藤田朋子 / 浅田美代子、渡辺裕之
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
©2022「銀平町シネマブルース」製作委員会
2023年2月10日(金) 新宿武蔵野館ほか全国順次公開
公式サイト g-scalaza.com