Jun 26, 2026 interview

一ノ瀬ワタル×夏帆インタビュー 答えの出ない問いと向き合う――“ひとは変わることができるのか” 映画『四月の余白』

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――そんな経験の積み重ねで、演技を続けられている理由は何でしょうか。

夏帆 何ですかね。演技を“面白い”と思っているんだと思います。

凄く好奇心を刺激されるというか、それが一番、私が仕事に対してやりがいを感じていることです。俳優という仕事を通して新しい人と出会える機会も多いですし、新しい場所に行くことも多いです。その役を通して知らない世界を知ることができる。常に好奇心を刺激されていて、それが一番やっていて楽しいと思っています。あと人と一緒にモノを作ることは、素敵なことだと思っています。演技を通して、“新しい何かを知りたい”みたいなところです (笑)。

一ノ瀬 自分の場合は何人かいますね。ターニングポイントになった人というのが。今回、夏帆さんと共演して夏帆さんの儚さとかも自分の中では勉強になったし、それこそ問題児の【澤海斗】を演じた上阪隼人くんのあの雰囲気にも凄く影響を受けました。そんな出会いの中で、強いてひとりあげるとしたら‥‥自分は16歳の時に高校を辞めて東京に来て仕事をしながらキックボクシングをやっていたんです。でも練習してもなかなか上手くいかなくて、彼女が出来たら練習にも行かなくなったんですよ。これじゃダメだと思って、その時に沖縄のジムに内弟子というシステムがあって、そのジムの先生が「仕事しなくていいけど、朝から晩まで練習だよ。お前が、このきつい練習の環境に耐えられると思うのなら来い」と言われたんです。もちろん携帯電話も持てないし、外出も禁止です。本当に映画に出てくる全寮制更生施設「みらいの里」みたいというか、そんな感じの過酷な環境に自分は行くことにしたんです。そこの先生ですかね。一番、影響がデカかった存在と聞かれるとここの先生、安里支部長という方との出会いは、大きかった気がします。

――どんなことを教えてくれたのですか。

一ノ瀬 最初は鬼のような練習ですよ。それこそトイレにも行けないんです。黒崎建時さんという空手家の方がいらっしゃって、その流れをくむ練習方法だったんです。麻の袋に砂鉄を入れて、その麻の袋をずっと殴るんですけど、これを1000発ほど殴ると、骨が見えてるんじゃないかというぐらい皮膚がめくれてくるんです。そうなってくると先生が、「その痛みが人を強くするんだ」と言いながら、そこに塩を塗り込んでくるんですよ。つまり麻袋を殴ること自体に意味があるというよりは、精神を凄く鍛えてくれるんです。ただこの話だけ聞くと凄く怖い先生に見えるかもしれませんが、めちゃくちゃ優しいんです。安里支部長はこれまで自分が出会った中でトップ3に入るぐらい優しい先生なんです。【西】にちょっと似てますね。そのジムには少年空手の道場も併設されてたんです。少年空手に来る子どもの中には【海斗】みたいなグレた子もいて。一緒に来たお母さんの顔面を急に殴るような、“本当にこいつ将来大丈夫か?”みたいな子が、そこに通うと更生していくんです。自分が見ている限り、100発100中、皆が更生していくんですよ。あそこでの修行は、自分の中で凄くデカかった気がします。

――その経験がこの映画でも活かされているのですね。

一ノ瀬 活かされていたらいいですね。

映画初主演となった一ノ瀬ワタルさん。撮影中は【西健吾】でいることを心掛けて、集中力が途切れないようひとりになるようにしていたそうです。ご自身の経験から「対話だけで人は更生できるのか」という映画のテーマに対しても、日頃から興味を持っていたとのこと。そんな一ノ瀬さんがクランクアップの打ち上げで、スタッフや俳優に挨拶をして回っている姿を見た夏帆さんは、「なんて誠実な方なんだろう」と思ったそう。そう聞くと、この映画の【西健吾】を一ノ瀬さんが演じるのは、“なるべくしてなった”ことであり、運命にさえ感じるのでした。

取材・文 / 伊藤さとり
撮影 / 奥野和彦

作品情報
映画『四月の余白』

元半グレで元受刑者の過去を背負う西健吾は、海の見える地方都市で全寮制更生施設「みらいの里」を運営している。実体験を糧に道を踏み外しかけた子供たちに体当たりで向き合うが、体罰も辞さない更生方針は教育関係者から批判されていた。ある時、中学教師の冬子から手に負えない生徒の海斗と、鑑別所帰りの悠について相談を受ける。2人に会った西は、一瞬で海斗の狂気を見抜いた。激しい家庭内暴力に疲れた母も息子を「みらいの里」に託すと決意するが、海斗は施設でも寮生とトラブルを起こして脱走。さらには傷害事件で逮捕されてしまった。西は海斗の父から責め立てられた。若い頃、西にリンチされ、左脚に障害が残ったというのだ。記憶のない過去と向き合う西にできる贖罪は、海斗を更生させることだけ。「ひとは変われる」と信じて新たな取り組みに踏み出すが‥‥。

監督・脚本:𠮷田恵輔

出演:一ノ瀬ワタル、夏帆、上阪隼人、篠原篤、占部房子、山﨑七海、和田庵、髙田万作、松木大輔、小沢まゆ、パトリック・ハーラン

配給:アークエンタテインメント

©2026 N.R.E.

公開中

公式サイト shigatsu-yohaku

伊藤 さとり

映画パーソナリティ
年間500本以上は映画を見る映画コメンテーター。 映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。 自身が企画の映画番組、俳優や監督を招いての対談番組を多数持つ。 映画コメンテーターとしてCX「めざまし8」、TBSテレビ「ひるおび」、ABCテレビ「news おかえり」、BS10「舘ひろしシネマラウンジ」などでの レギュラー映画解説をはじめ、TVやラジオ、WEB番組で映画紹介枠に解説 で呼ばれることも多々。 雑誌やWEBで映画評論、パンフレット寄稿、映画賞審査員、 女性監督にスポットを当てる映画賞の立ち上げもおこなっている。洋画で映画館アフタートーク「しゃべればinSHIBUYA伊藤さとりとお友達」ヒューマントラストシネマ渋谷にて毎月開催中。 著書「2分で距離を縮める魔法の話術」(ワニブックス)。 2022年12月16日には最新刊「映画のセリフでこころをチャージ 愛の告白100選」 (KADOKAWA)が発売 。
伊藤さとり公式HP: https://itosatori.net