Sep 24, 2020 column

14: 起業してゲーム会社を設立、大企業サラリーマンから経営者へ

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業界のプロフェッショナルに、様々な視点でエンターテインメント分野の話を語っていただく本企画。日本のゲーム・エンターテインメント黎明期から活躍し現在も最前線で業務に携わる、エンタメ・ストラテジストの内海州史が、ゲーム業界を中心とする、デジタル・エンターテインメント業界の歴史や業界最新トレンドの話を語ります。

13 セガへの転職で理解したビジネスマンに必要なサバイバルスキル」はこちら

2003年にゲームクリエイターの水口哲也と一緒に起業して、ゲームソフトウェアの企画・開発を行うキューエンタテインメント株式会社を設立。2013年に売却しましたが、その間には様々な出来事がありました。

私がディズニーに在籍していたある日、ドリームキャストの開発や様々なプロジェクトで組んでいた水口哲也から相談があると連絡がありました。彼は今では様々な分野で活躍しているクリエイターですで、セガ時代から気がとても合っていましたし、彼の魅力や強さも感じていた盟友です。

その水口哲也が連絡をしてきて開口一番に言ったのは、「セガをやめることにしたから、会社を作って一緒にやろう」という提案でした。ディズニーで順調に仕事をしていたものの、プレイステーションとドリームキャストの立ち上げという常道を逸した忙しい日々から比べると、(当然忙しくはあったのですが)少しゆっくりしたディズニーの生活に刺激が欲しかったのかもしれません。

セガへの転職の時に続き、ここでも思い切った判断をしました。大企業で勤務し、ビジネスも安定していてしかも『キングダムハーツ』などの成功もありとても順風満々な生活を捨て、会社を設立するという新たなチャレンジに挑むことになります。この時すでに42歳で、しかも二人目の子供が生まれたばかりでした。

この、キューエンタテインメントを経営した10年の旅、私はクエストと呼んでいますが、それはサラリーマンではなかなか味わえない、時には味わいたくもない経験をしたからです。また、水口哲也や他のクリエイター、社員とゲームをヒットさせるべく世界中のゲームイベントに参加しクリエイターやビジネスマンなど数多くの人たちとも接点を持ちました。

直近で話題の人では、上場間近でゲームアプリを作るには欠かせないゲームエンジン”Unity”の開発元であるUnity Technologiesの共同創立者兼CEOのデイビット・ヘルガソン(David Helgason)やアタリの創設者ノーラン・ブッシュネル(Noran Bushnell)などとても価値ある出会いが多くありました。

右端:筆者、その左横からUnity Technologies Co-Founder / CEOのDavid Helgason、ATARI FounderのNoran Bushnell、Resolution Games 現CEOのTommy Palm

この会社のことを知らない方が沢山いると思いますので、まずは会社の紹介を簡単にしたいと思います。キューエンタテインメントではスローガンとして“Quest for the Future Entertainment”という言葉を掲げて、ゲーム、エンタテインメント業界に新しい旋風をおこそうという目標のもと起業しました。

起業後、最初にPSP向けの『ルミネス』、NINTENDO DS向けの『メテオス』という2タイトルを開発、それぞれのタイトルは、米国と欧州のゲーム業界批評のトップサイトであるメタクリテック(Metacritic)で、当時のPSP部門、NINTENDO DS部門で各々1位を獲得しました。ここで、海外では一躍名前を売り込むことに成功します。

その後、マイクロソフトのXBOX向けのタイトル“Ninty Nine Nights”をファーストパーティ向けに開発し(マイクロソフトが出版ということ)、小さい会社でありながらディズニーや(フランス大手のゲーム会社の)UBIといった海外大手とも契約し、世界中にゲームを供給していました。

その他に、”元気ロケッツ”というグループ名で音楽を出版し、レコード盤部門で1位を獲得したり、『AngelLoveOnline(エンジェルラブオンライン)』という基本プレイ無料のPCオンラインゲームを運営。更に当時は画期的だった世界で初めて基本プレイ無料でこのゲームをプレイステーション上で展開したりしました。

モバイルゲームでもmixi, DeNA, Greeへのソーシャルゲームやスマホ向けゲームへの取組みも一早く取り込み、資金の調達も順調にすすめ、上場準備までしていました。

ただ、かなりの投資をしたモバイルゲーム事業が十分に立ち上がらず、リーマンショックの影響、クリエイターの離脱もあり、最終的には会社を売却することとなりました(売却後、キューエンタテインメントを買った会社は倒産)。それまでも、私はソニー、セガ、ディズニーで波乱の多い環境を歩んできましたが、起業を通じた一味違った経験に対して、最近ようやくためになった面白い人生の彩としてとらえることができるようになったと思います。

この様に、サラリーマンとしていくつもの大手企業のマネジメントを経験していながら、ベンチャーの経営者に転身したことで、なかなか当初想像することができなかった独特の起業経営の醍醐味などを学んだ期間でした。

ニューノーマルの時代、若い人から年配の人まで幅広い年齢の方たちが起業という選択を判断する事があると思います。その際の参考として、またサラリーマンでも今後の変化の激しい時代に知っておくべき話だと思います。