Dec 17, 2019 column

『スター・ウォーズ』シリーズでしか味わえない興奮と落胆

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魅力に溢れた世界観を持つ現代の神話

そんな大きな区切りを迎える『スター・ウォーズ』シリーズだが、なぜこのシリーズはこの世界においてこれほど特別な存在であり続けているのか。

現在、映画界には『アベンジャーズ』シリーズを筆頭にさまざまなヒットシリーズがあり、次々と興行収入記録を塗り替えている。すでに『スター・ウォーズ』シリーズは世界最高のヒット作ではないし、ましてやアカデミー作品賞を受賞するような作品でもない。

しかし、それでもこの作品が多くのファンを虜にしてやまないのは、このシリーズでしか味わえないものがあるからだ。

そのひとつが、唯一無二の世界観だろう。有名な小説やアメコミ原作でもなく、現代劇でもなければ、歴史の実話でもない。創造主ジョージ・ルーカスが生み出した、はるか彼方の銀河系で繰り広げられるスペースオペラの世界は、どんなに真似しようとしてもできない、『スター・ウォーズ』シリーズにしかないものだ。

三部作に分けて描かれる本シリーズにおいて、共通して描かれるのは支配からの脱却。狭い世界しか知らなかった若者が、ひょんなことから広い宇宙へと飛び出し、自らの運命と闘いながら民衆を救う人物へと成長していく。話は単純明快そのもので、そこに複雑な人間ドラマや、徹底したリアリティ、繊細な感情表現はないと言っていい。もしそれらを求めるならほかにいくらでも良い作品があるだろう。

このシリーズにファンが求めるものは、そこではない。悪の帝国と反乱軍の勧善懲悪の戦い、正義のジェダイ騎士とダークサイドであるシスの暗黒卿、彼らが操るフォースと、映画史上もっともエレガントな武器ライトセーバーのバトル。独創的で洗練されたデザインの宇宙船やビークルによる迫力のチェイスや、ドロイドや動物との掛け合い。そして何より、つい感情移入してしまう魅力あふれるキャラクターたち。単純な物語ながら、スクリーンに映るすべてが独創性と美しさ、愛すべき魅力にあふれている。

1977年から始まった旧三部作のころは、当然CGで何でもできる時代ではなかった。しかし、ルーカスをはじめとした才能あるクリエイターたちは創意工夫を凝らし、まさに血のにじむ努力で期待を上回るヒットを重ね、独特の世界観を築き上げてきた。

創造主であるジョージ・ルーカスから生み出された現代の神話。その魅力に気づいてしまったが最後、このシリーズからもう目が離せなくなるのだ。

数々のお約束も『スター・ウォーズ』の魅力

そして世界観を積み重ねたからこそ、このシリーズには数々のお約束が生まれた。毎回それを楽しみに劇場へ行くということも、このシリーズならではの大きな魅力だ。

まず有名なお約束といえば、やはりオープニングだ。ルーカス・フィルムのロゴの後、「遠い昔 はるかかなたの銀河系で…」という水色のテロップが表示され、一瞬の間を挟んで、ジャーンという音とともにスクリーンいっぱいに黄色の『スター・ウォーズ』のロゴが出現。そこから有名なテーマに乗せて、エピソード数とサブタイトル、そして前作とを繋ぐ物語説明が表示され、観客はそれを必死に読んで頭に叩き込む。それが消えるとカメラがパンして、何かしらの宇宙船が映る。ここまでがシリーズ共通のお約束だ。

このオープニングは、劇場で鑑賞する際「これから『スター・ウォーズ』を観るんだ!」と気分を高揚させてくれる非常に重要な瞬間でもある。

さらに劇中のセリフにも、有名な「フォースと共にあらんことを」はもちろん、誰かが必ず「イヤな予感がする」という台詞を口にすることや、「No!」という台詞とともに悲劇が起こるなど、お約束が散りばめられている。

新作が公開されるたび、劇場ではそのお約束で観客が大きな歓声を上げる。そんな楽しみ方ができるのは、まさにこのシリーズだけだろう。