Aug 20, 2023 column

鳥山明ワールド全開! 悪魔と老人が世界を救う摩訶不思議アドベンチャー『SAND LAND』鑑賞へのロードマップ

A A
SHARE

「SAND LAND」の詳細設定

鳥山明作品のルールで言えば、「ドラゴンボール」のサイヤ人が全て野菜の名前のように、ブルマの家族が全て下着の名前であるように、名前が直接的で関連性がある。

主人公ベルゼブブは、いわずもがな悪魔の首領、ハエの王の悪魔。敵対関係にあるサンドランド国王軍のゼウ大将軍は、ゼウスで、その部下アレ将軍は、ゼウスとヘラの息子であるアレース、国王軍の生物兵器・虫人間を開発したドクター・ポセは、ポセイドンというように、悪魔と神の戦いの構図となっている。

またベルゼブブに付き添う魔物シーフが盗人の意味で、保安官のラオが老人という意味と、キセルの雁首と吸い口をつなぐ竹の管の意味の羅宇、「ドラゴンボール」のフリーザのようなポッドに乗っているゼウは、ベトナム語で苔の意味があることを知っておくと、劇場版アニメがより楽しめるだろう。

加えて映画『SAND LAND』には、マンガには描かれていない詳細設定がある。

鳥山明によると、この世界ではベルゼブブの父である「サタンの祖父の時代に1度だけ世界を終わらせた」そうで、「ほとんどの生物は神が創りましたが、悪魔は魔物たちと人間を創りました。人間は、自分たちを参考に、大幅に性能をダウンして娯楽のために創りだした生物です。少しばかりの知恵を与え、愚かな行動や進化を見て楽しんでいます。いつからか、凶悪さで魔物を上回る人間が多くなり、神からの苦情も増えた、悪魔の王サタンもそろそろ2度目の人間撲滅を考え始めました」と、されている。

悪魔は昔も今も人を殺さない、とされている世界で、ベルゼブブが決め台詞のように「人間のくせに悪魔より悪いことしやがって」ということに、理解が深まり、彼のちょっとすっとぼけた行動に説得力が増してくる。

また、圧倒的なメカニックデザインで知られる鳥山明が描いた、本作のメインメカでもある戦車についても、本人がこう答えている。

「本来、戦車は目立たないように、また攻撃を受けにくいように、車高を低くするものです。しかし大きな戦闘がなくなってからは、威圧感を重視して車高をあげ、世間に対し存在をアピールする方向になっていったのです。また両側に大きなハッチを配するなど、防御力も軽視されているようです。お気づきのように、なぜか砂漠とは真逆のペンギンがモチーフです。」

また、作中では詳しく説明されていない、「天空の城ラピュタ」の飛行石のような性質を持つ反石については、「反石は電気を流すことで、重力を変化させられる貴重な鉱石です。車高をあげた戦車は重量も重くなり、重心が上がってバランスもよくありません。そのために反石を4箇所に設置してコントロールしているのです」と説明している。

もちろん、これらのことを知らなくても『SAND LAND』は楽しめる作品だが、劇場版アニメならでは演出、その意図や想いをより感じるために、覚えておいてほしい。

アニメとしての「SAND LAND」

まず劇場版は、4DXでの鑑賞をオススメする。その理由は、なんといっても戦車アクションだ。マンガでは描かれていない、コマとコマをつなぐ戦車の動き、その攻防は、「戦車が描きたかった」という鳥山明へのリスペクトを感じるとともに、圧倒的な迫力がある。

また原作とは違うシーンは、”アニメにするなら、こうする”という意図が伝わる。そこには作者のみならず、アニメファン、そしてアニメ・映画作品への愛がある。原作との差異には、数々の作品へのオマージュが散りばめられている。あなたはいくつ発見できるだろうか?

原作をより分かりやすくアニメとして描写する。原作ものの宿命だが、これは違うと感じる人もいるかもしれないが、作中のラオ保安官の台詞を借りると「偏見は正しい判断を狂わせる」から、一度フラットな目線で劇場に足を運んでほしい。宣伝文句に”鳥山動画”とされている理由がわかるはずだから。

先に述べたように『SAND LAND』は、鳥山明が「渋いストーリーを描きたかった」という大人のアニメだ。作品モチーフが、過去作品によくあるものということで、斜めで見てはいけない。子供のときに気づけなかった何かがあるはずだ。

個人的に本作のもうひとりの主人公は、ラオであると感じている。本作には過去の因縁がテーマとしてある。登場人物に老人が多いのはそれが理由だ。

本当の悪は誰だ?という本作のキャッチコピーがあるように、昔から続いていることに対して疑わず無自覚に従っていては、新しいことは始まらない。本作が「地味で軽めの内容が好き」という鳥山明が、「ドラゴンボール」終了後に描いた作品と考えると感慨深い。

過去とは、自分だけのことではなく我々の歴史のことでもある。さまざまなことのを振り返るには、2023年夏の公開は、いいタイミングだ。大人のみなさん、この世がでっかい宝島だと思えていたあの頃を思い出してみてはいかがだろうか?

作品情報
映画『SAND LAND』

魔物も人間も水不足にあえぐ砂漠の世界<サンドランド>。悪魔の王子・ベルゼブブが、魔物のシーフ、人間の保安官ラオと奇妙なトリオを組み砂漠のどこかにある「幻の泉」を探す旅に出る。

監督:横嶋俊久

声の出演:田村睦心、山路和弘、チョー、鶴岡聡、飛田展男

アニメーション制作:サンライズ・神風動画・ANIMA

©バード・スタジオ/集英社 ©SAND LAND 製作委員会

配給:東宝

公開中

公式サイト: sandland.jp/

アニメ総合見放題サイト「dアニメストア」なら最新作からなつかしのアニメまで配信中