2020年代のホラー映画
時代とともにサブジャンルが多様化し、人の感じ方によって定義が変わるホラー映画。昨今、『哭悲/THE SADNESS』だけでなく、70年代、80年代ホラー作品をリスペクトをもって、オマージュしている新作映画が増えている。これは、90年代以降、乱発された名作ホラーのリメイク、リブートとは一線を画すものだ。
『ソウ』(04)、『死霊館』(13)を手掛けたジェームズ・ワン監督による『マリグナント 狂暴な悪夢』(20)は、ホラーを知り尽くしたヒットメーカーらしく、『エクソシスト』(73)をはじめ、名作ホラーのワンシーンを彷彿させるカットを多用し、まるでファンの知識を試しているようだった。
また、7月8日公開のエクストリームホラーの『X エックス』は、登場人物の設定や、叫び声のカットは、明らかに、ホラー全盛期を下地にしている。
ホラー映画とは怖い映画。何か得体のしれないものに、意味も分からず襲われる。これが70〜80年代に起こったホラーブームのテーマだった。
2020年から未知のウィルスに侵され、あらゆる国でパンデミックが引き起こされた。まさに、全世界がホラー映画の設定のような現実に放り込まれたのだ。90年代サイコ・ホラーからの”実は人間が怖い”という流れを経て、いま本当に、得体のしれない何かにすべての人類が苦しめられている。
映画は時代を映す。特に低予算で作られるホラージャンルは、その表現がストレートだ。6月4日に公開された『ニューオーダー』は、混沌とした社会情勢の中のディストピアを描き、9月23日公開予定の『LAMB/ラム』は、いままで見たこともない禁断が産まれる話だ。共に現代に生きる人々がなんとなく感じている恐怖を描き出している。
レザーフェイスやジェイソン、ブギーマンにフレディ。かつてイカれた殺人鬼に追いかけられる恐怖がヒットした。現在は、その解決できない不条理はそのままに、新しい怖さを表現する作品が生まれやすい状況なのだろう。現実世界が一変した今、未来のホラー映画から生まれる恐怖に、改めて注目してみたい。
文/ 小倉靖史
謎の感染症に長い間対処し続けてきた台湾。専門家たちに“アルヴィン”と名付けられたそのウイルスは、風邪のような軽微な症状しか伴わず、不自由な生活に不満を持つ人々の警戒はいつしか解けてしまっていた。ある日、ウイルスが突然変異し、人の脳に作用して凶暴性を助長する疫病が発生。感染者たちは罪悪感に涙を流しながらも、 衝動を抑えられず思いつく限りの残虐な行為を行うようになり、街は殺人と拷問で溢れかえってしまう。そんな暴力に支配された世界で離ればなれとなり、生きて再会を果た そうとする男女の姿があった。感染者の殺意から辛うじて逃れ、数少ない生き残りと病院に立て籠もるカイティン。彼女からの連絡を受け取ったジュンジョーは、独りで狂気の街を彷徨い始める。
監督・脚本・編集:ロブ・ジャバズ
出演:レジーナ・レイ、ベラント・チュウ、ジョニー・ワン、アップル・チェン、ラン・ウエイホア
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/松竹
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