Apr 30, 2026 column

『プラダを着た悪魔2』 ストライク・ア・ポーズ、彼女たちの気品

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再びミランダの“娘”になる

前作のアンディが、ハイブランドを纏い、ある意味“上流社会”に参加することの高揚感に包まれていたとするならば、『プラダを着た悪魔2』のアンディは、再びミランダの“娘”になることの高揚感に溢れている ( このシリーズのもう一人の“娘”であるエミリー (エミリー・ブラント) と再会するシーンの素晴らしさ! )。崇拝されると同時に、恐れられるカリスマ。登場するだけでオフィスにただならぬ緊張を走らせるミランダは、ランウェイという帝国の女王であり、いわば“魔女”のような存在でもあった。ミランダに質問することは許されない。「ザッツ・オール (以上)」という冷淡な口癖は、もはや伝統芸の域にある。メリル・ストリープは静かな口調で人を威圧させるミランダを演じるにあたり、クリント・イーストウッドなど、男性俳優の発声を参考にしていたという。“ガールボス”という概念の先駆者ともいえるミランダ。しかし前作の時点で、もしミランダが男性だったなら有能と讃えられるはずだと、アンディはフェアな立場で彼女を擁護していた。20年前、すべての騒動が終わった時、ミランダとアンディは昔の恋人を見つめるようにお互いに視線を送っていた。ミランダとアンディは母と娘のような関係であるだけでなく、特別なロマンスで結ばれた恋人関係のようでもある。そして『プラダを着た悪魔2』では、ミランダの人生がよりクローズアップされている。

ミランダのカリスマ性は変わらない。しかし、時代が大きく変わってきている。本作は2006年から2026年の間に起こった、人々の価値観の変化をリアルタイムな形で映画に取り入れている。アン・ハサウェイのもう一つのリクエストは、モデルのような細い体型の女性ばかりをキャスティングしないことだった。2026年のランウェイ社には、多国籍な人材が集まっている。様々な体型の従業員がいる。ここでは前作のアンディのように、「サイズ6」と体型を揶揄されることもない。新しいアシスタントたちは、アンディがいた頃の全盛期のランウェイを知らない。アンディがマーク・ジェイコブスの新作バックを気前よく友人にあげていた時代。若い頃から進歩的な女性に見えたアンディは、2026年のランウェイ社の雰囲気を歓迎しているようだ。同時に彼女の歩き方やアシスタントとの接し方は、あの頃のランウェイで働いた経験が決して無駄ではなかったことを感じさせてくれる。ファッションとほとんど無関係に生きているつもりでも、あなたの着る服は私たちの世界とつながっている。前作で“セルリアンブルー”の流行についてミランダの講釈を得た経験を、大人の女性として生きるアンディは既に血肉化させている。

前作の大ファンであるグレタ・ガーウィグは、「Vogue」誌でミランダのモデルとなったアナ・ウィンターとメリル・ストリープにインタビューしている。グレタ・ガーウィグが指摘しているように、このシリーズには“自分をどう見せるか”という大きなテーマがある。ミランダというキャラクター自体が、彼女が作り上げたもう一人の自分、社交的なペルソナともいえる。ミランダの期待に応えるため、前作のアンディはこの世界に自分を適応させていく必要があった。彼女の“変身”が、この業界への切符となったように、そこには衣装を纏うことによる陶酔感があった。戦いがあった。何より仕事に対する真剣さがあった。そして『プラダを着た悪魔2』は、ミランダのレガシーに関する映画である。彼女の真剣さ、卓越性の追求をどうやって次の世代へ引き継いでいくのか。

レガシーという文脈において、ミランダというキャラクターを伝説的な俳優ベティ・デイヴィスのイメージと重ねるグレタ・ガーウィグの指摘と、メリル・ストリープによる全面的な同意はリスペクトに満ちている。過去の偉大なアイコンたちが成し遂げたレガシーの系譜に自分たちの創作があることを、はっきりと自覚している。前作のパトリシア・フィールドから衣装デザインを引き継いだモリー・ロジャースは、『プラダを着た悪魔2』のアンディの衣装を『アニー・ホール』(1977) のダイアン・キートンとキャサリン・ヘプバーンを融合させたようなイメージと語っている。キャサリン・ヘプバーンの冒険者のような女性のイメージは、ジャーナリストとして世界中を旅してきたアンディと素晴らしいマリアージュを果たしている。そしてランウェイを去ったものの、いまだエッジな感性を失っていないエミリーのスタイリングは、衣装チームの全員が彼女を担当したいと願うほどだったという (自由な実験ができるため)。エミリー・ブラントの演技は、キャラクターのエッジと焦燥感、警戒心、脆さ、すべてを同時に感じさせてくれる。ミランダの2人の“娘”たち。前作の公開以後、アン・ハサウェイとエミリー・ブラントは、どちらもハリウッドを代表する俳優になった。エミリー・ブラントにとってアン・ハサウェイは、この業界で初めてできた友人だという。