04. 映画ライターが選ぶ2022年おすすめ映画
『ハケンアニメ!』:今の仕事を選んだ意味を自分に問いかけたくなる
直木賞作家の辻村深月さんが、アニメ制作の舞台裏を描いた小説を実写化した映画『ハケンアニメ!』。”ハケン”とは”覇権”(競技などで優勝して得る栄誉)のこと。その”覇権”を競うアニメ作品を作り上げるため、様々な業界の人達の視点から描くお仕事奮闘ストーリーです。
公務員として働いていた斎藤瞳は、かつて天才アニメ監督と言われた王子千晴のデビュー作「光のヨスガ」と出会い、自分もそんな作品を作りたいとアニメ業界に転身。晴れて新人監督になった瞳ですが、中々ヒット作に恵まれず、仕事も思うようにいかない日々。そんな中、王子監督にとって久々の新作となる「運命戦線リデルライト」と、瞳のデビュー作「サウンドバック 奏の石」を同クール、同時間帯に放送し、覇権を争うことに。その過程でアニメ制作に携わる登場人物たちの思惑や葛藤がぶつかりあい、人間ドラマを生み出しています。
王子を超えるべく、デビュー作に懸ける新人監督・瞳を演じたのは吉岡里帆さん。真っすぐな想いを持って仕事に奮闘する姿に心打たれます。孤高の天才アニメ監督・王子を演じたのは、中村倫也さん。普段は飄然とし、周囲に軽口を叩くこともありますが、アニメに対する人一倍熱い想いを内に秘めている王子を好演しています。作中、王子がシャワーを浴びた後にプロデューサーの有科香屋子と遭遇し、慌てふためくシーンがあるのですが、私はこの場面を見た瞬間、原作に書かれている文章がそのまま頭に浮かんで、あまりの再現度に驚きました!
また、過剰なほどのこだわりとわがままぶりが災いし、降板が続いていた王子を8年ぶりに監督復帰させるため、大勝負に出る香屋子役に尾野真千子さん。デビュー作以降、再浮上できずにいる王子のお尻をビシバシ叩いて尽力するのですが、彼女の弱さがポロっと出てくるところもあって一気に親近感が増します。さらに、瞳を振り回す敏腕チーフプロデューサーの行城理を演じているのは、柄本佑さん。作品が世に出てヒットするなら、自分が悪者になることもいとわないという役どころを飄々と、時にチャーミングに演じています。
他にも、アイドル声優やアニメーターなど様々な仕事人たちが登場し、それぞれがそれぞれの想いを抱いて全力で仕事に挑んでいる姿を見ると「私はなんでこの仕事を選んだんだろう」と、今一度自分自身に問いかけたくなりました。
好きなことを仕事にするということは、羨ましいと思われるかもしれません。かく言う私も好きなことを仕事にしていますが、思うようにいかなかったり、結果を出せなかったりすることへの焦りや自己嫌悪に押しつぶされそうになることもよくあります。そんなときに「自分も人の心も動かせるのは“好き”という情熱なんだ」ということを本作は思い出させてくれます。瞳の「たった1人でもいい。どこかの誰かに“面白い!と思ってもらえるものを作りたい」という気持ちを、自分も忘れたくないなと思わせてくれました。
文/根津香菜子
『ハケンアニメ!』おすすめ記事
Interview / 吉岡里帆 個性をまるごと愛する大切さに気付いた『ハケンアニメ!』
監督:吉野耕平
出演:吉岡里帆、中村倫也、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里佳、六角精児、柄本 佑、尾野真千子
原作:辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)
配給:東映
©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
公式サイト haken-anime.jp
配信サイト U-NEXT