Jul 14, 2020 column

『幸福路のチー』が問いかけるあなたの人生の物語

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これを書いているのは7月頭で、ちょうど東京都知事選挙が終わったところだ。大きな選挙が終わるたびに(それが僕の期待した結果であるかどうかに関係なく)毎度この結果が人生に大きな影響を持つことになる人は間違いなくいるのだろうと言うことを思ってしまう。

影響とは、自身の政治的な思想や傾向にとって受け入れられるものであるかどうかなどという矮小な話ではなく、それによって人生の進む方向自体が変わってしまうかどうかだ。それがプラスの方になのか、マイナスの方になのか。その時はマイナスであったと思っても何年かすれば実はそれが良かったということに繋がることもあるし、もちろんその逆もある。よほど特殊な社会制度の国にでも生きていない限り、多くの人の人生は常に社会と政治的な流れに無縁ではいられない。

…などということを考えていた中で、台湾のアニメーション映画『幸福路のチー』のDVDレンタルとレンタル配信がスタートとなった。待ちかねていた人も結構いたのではないかと思う。

作品公式サイト:
http://onhappinessroad.net/

『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』『羅小黒戦記』『失くした体』。大手でも『スパイダーマン:スパイダーバース』などなど、海外アニメーションの話題作や注目作が立て続きトピックとすらなった昨19年に公開され、この作品もまた話題をさらった中の1本だった。僕も劇場で見たが、昨年に公開で見た映画全ての中でベストに入っているほどだ。

主人公は台湾の幸福路で生まれたチー。今はアメリカで家庭を築いて暮らしている彼女は大好きだった祖母の訃報を聞き、葬儀のために故郷台湾に帰国する。
チーは1975年4月5日、蒋介石が死んだ日に生まれた。子供時代は戒厳令下。青春時代は社会に学生運動が吹き荒れ、社会に出た直後に99年の921大地震が起こった。チーの半生は民主化に揺れた台湾の激動の時代をそのままたどる。その中で学び、友が出来、時にそういった社会情勢の中に身を置き大人へとなっていく。

幸福路のチー

久々の故郷の風景。懐かしい友達との再会。楽しかったこと、つらかったこと。ふり返っていく中で見つめる今自分が立っている場所と、この先への悩み。思い出されるかつての夢に何を思うのか。映画は彼女の半生を台湾の近代史の中で描いてゆく。