NHKのオタク系番組は90年代から始まったと言える。96年から10年以上にわたってBSで放送された不定期番組『BSマンガ夜話』、そこから派生した『BSアニメ夜話』といった作品評番組の濃さは多くのファンを楽しませた。07年からは声優やクリエイターがゲストのトーク番組『アニメギガ』や『MAG・ネット ~マンガ・アニメ・ゲームのゲンバ~』のように作り手・送り手への注視や、社会的評価を伝えることにも力を入れている。さらにさかのぼるとそれらの源流となっているのは、恐らく90年代中盤にBSで放送されていた若者向けエンタメ情報番組『真夜中の王国』で、オタク系作品やクリエイターを取り上げることも多かった。 ほんの20年弱前まで、こうした番組は夢のまた夢。民放は毎度『フランダースの犬』がベスト1になるようなランキング番組が限界で、ちょっとハイターゲットのものはマニアが契約しているCSなどのペイチャンネルでしか成立しなかった。それがNHKで成立するほど、もはやオタク系の視聴者が増加したということだ。オタクはとっくにマイノリティではなくなっている証でもある。
評にまつわる番組だけではなく、アニメ番組放送でもそういう変化は顕著だ。
90年代までは公共放送らしくキッズ&ファミリー向けを主としていたが、00年代からは『学園戦記ムリョウ』や『プラネテス』のように従来のキッズ&ファミリー層よりもターゲット年齢を上に設定したアニメの放送が本格化する。(「アニメファン受けした『ふしぎの海のナディア』や『カードキャプターさくら』はどうなんだ?」という意見もあると思うが、あれらは結果としてアニメファンにも大いに受けたが、局の扱いは“キッズ&ファミリー向け”だった) 転機は12年。前年に独立U局で放送された不条理ギャグアニメ『日常』を再編集した『日常 Eテレ版』が放送されたことだろう。民放で放送された物を再編集しNHKで…と、いろいろな意味で異例の試みがされたが、以後は『涼宮ハルヒの憂鬱』など民放で放送された作品が継続的に流れている。さらに18年には『進撃の巨人 Season3』がそれまでの民放・毎日放送系列からNHK、それもBSではなく総合に移っての放送になるという驚きの事件も起きた。シーズンが変わったときに民放から別の民放局へと放送局が変るケースはたまにあるが、NHKに移るのは異例中の異例で、おそらく初のケースだろう。NHKゆえとうぜんCMは入らずソフトパッケージや関連書籍などのCMも流せないことになるが、製作サイドにとって「それを踏まえてもメリットがある」と判断されたことになる。4月からは『Season3』後半が放送開始だが、同月からはさらに驚くことに劇場配信されたOVA『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』も全13話に再構成され放送される。『ガンダム』TVシリーズのNHK初進出だ。
こうした番組に対し、「なぜNHKがオタク番組をやるのか?」「ファミリー向けならともかくマニア向けアニメをやるのか?」という反応もある。が、NHKがオタク系番組をやり続けることにも意味がある。