このレイヤードインジェクションの技術はこの『Figure-rise LABO ホシノ・フミナ』で誰も想像すらしなかった表現を可能にした。それが肌の陰影だ。肘の内側や、腹部のわずかな凹凸に生まれる微妙な陰影。フィギュアはこれによって豊かな立体感が生まれる。従来のフィギュア模型であれば、モデラーが「その部分は1段階暗い肌色を使う」という塗装によって表現をしてきた。だがこの製品では… ●赤色のインナーパーツがあり、その上に表皮となる肌色の薄いプラを被せて一体成形する。この薄い肌色に下の赤地が透けるため、肌の透明感が表現される。 さらに… ●ベースの赤色パーツには微妙な凹凸がつけられており、その上に被る肌色パーツには“厚みがある部分と薄い部分”がある。 ●その肌プラの厚みの違いにより「赤地が濃く透ける部分と、薄くしか透けない部分」が生まれ、それが“陰影”のように見える。 …という理屈で製造されており、言葉でいうと「ナルホド」なのだが、製品を見ても「理屈はわかるが、なんでそれが実際に製造できるのかの技術が理解できない」という感じだ。成形肌の透明感も、腹部や腕や脚の微妙な凹凸にある“影”の自然さもただ驚かされる。
プラモデルメーカーの多くは過去数十年「プラ素材でいかに“透け”が起こらないようにするか」を試みてきた。バンダイも同様で、同じガンプラであっても古い製品ではエッジ部分に光が透けることがあったが、現在の製品ではそんなこともほとんどない。塗装スキルが無い人や初心者や若年層が、色を塗らなくてもそれなりの物に仕上げられるようにするためだ。が、この『フミナ』においては、これまで無くすべく努力してきた“透け”ることを“透けさせる”に変えている。 レイヤードインジェクションそのものも、かなり以前から何度かバンダイのプラモで使われていた技術だが、あらかじめ細かく色分けしてのパーツ分割や、デジタル設計や製造の進歩による精密さの向上によって、特にロボットのプラモにおいてはこの技術で製造をする理由は失われていた。それがこういう形での使われ方・使い方があったのかというのは驚かされる。
だが、模型ファンであっても多くの人がどうしても疑問として感じることもある。
「ここまで超技術でなくてもいいんでないの?」「凄いけれど、バンダイのこういう製品以外で使いどころや発展性が想像できない」 完成品フィギュア市場に大きな影響を与えるか?という面でも疑問だ。一部の大ヒット商品を除けば完成品フィギュアは売れる数も限られる。ただでさえプラモデルは金型製造にコストがかかるので、かなり売れなければ採算がとれない技術を持ち込んでの製品はやたらとリリースされることはないだろうし、出来るものでもないだろう。なので完成品には取って代わることにはなりそうもない。今製品が商品として成立しているのも「人気があってそこそこ売れるであろう『ビルドファイターズトライ』のフミナだから」という理由はかなり大きいだろう。
なら、過剰なだけの無意味な技術なのだろうか?