Apr 03, 2018 column

大ヒット映画『リメンバー・ミー』が映し出す、ディズニーの伝統と革新へのチャレンジとは?

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また『リメンバー・ミー』を見て驚いたのは、その革新的な製作姿勢が、世界観やその他の要素にも盛り込まれていたことだ。子供をメインターゲットとしたファミリームービーで死の世界を扱うことはもちろん、世界の市場を意識したときに明らかに認知が低いであろうメキシコという舞台での祝日を題材としたこと。

しかしながら、死の世界を扱っているのにとにかく楽しい。多くの人のイメージにあるようなラテン的な明るいノリだ。おそらくこの作品の舞台をメキシコとしたのはこういうこともあるのだろう。死を扱うが暗い作品にはしたくない。生者と死者の関係を明るいノリで描くには?だ。実際、監督らもメキシコ出身者ではなく、作品を作るにあたってリサーチを重ねたそうだ。なので今作を見ていても実際のメキシコでの死者の日とは違う描写をしているのか?さらには物語の軸にある死生観や家族観がどうなのかまではわからないのだが、「家族の絆」「失った家族への想い」「祖先への想い」という国を超えて普遍的な題材を結びつけることで、世界の多くの文化圏の人が入り込めるものとしている。このようなグローバライズの巧さにはつくづく感心させられる。

さらに言えば、見終えてしばらくしてから気づいたが、作中の死者の国は現世(生者の世界)と果てしなく地続きだ。しかしそこにはある“死”の設定が設けられている。生み出したものは自身が死んでも、地続きで生き残り続ける。しかしあるときにそれは失われる。これは、考えてみたらクリエイター…というより、世の“何かを作っている人たち”全てにとっての生と死の境界でもあるのだ。大人が、この物語を楽しく、それでいてセンシティブなものを感じるのはこういうこともあるのかもしれない。

本作はディズニーによる22分の短編アニメーション『アナと雪の女王/家族の思い出』が併映作品となっている。偶然であるのか『リメンバー・ミー』同様に、祝日と家族の思い出が要となっている。『リメンバー・ミー』は感動作という面での評判が大きいが、この「最先端のCGアニメ映画」2本から、そこに込められた伝統と革新とは何か?を考えてみることも面白いだろう。ちょうど新年度となり、新たなことへのスタートを切ることも多いこの時期。それを考えることは大きな糧になるかもしれない。「“お話”が面白かった・そうでなかった」だけではなく、そういうことの読みとりが出来るのも映画の面白さだ。

ちなみにピクサーの20作目となる次作『インクレディブル・ファミリー』は北米は6月15日、日本は8月1日公開予定だ。監督はアニメのみならず、実写映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』などでもヒットを飛ばしたブラッド・バードが、前作『Mr.インクレディブル』(04)に続いて手がけている。こちらも今から楽しみだ。

文 / 岡野勇(オタク放送作家)