Apr 03, 2018 column

大ヒット映画『リメンバー・ミー』が映し出す、ディズニーの伝統と革新へのチャレンジとは?

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世界中の映画ファン、アニメファンを魅了し続けるピクサー作品の魅力は何なのだろう?

「ディズニーの一部門となってからのピクサーとウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオの作品にはもう違いはそれほど無い」という人もいるが、僕はやはりこの両者はそれぞれに違いがあり、その違いがそれぞれのブランドの人気を維持しているのだと思う。『トイ・ストーリー』の監督であり、現在はディズニーのトップでもあるジョン・ラセターの発言などからすると、ディズニーは伝統的な作品作り。ピクサーは革新的な作品作りという違いだそうだ。

これを僕なりに解釈すると、「伝統的な作品作り」というのは古くは1937年の『白雪姫』から続いてきたアニメーション映画作りの歴史と経験則そのものだ。ディズニーの作品では童話やおとぎ話などを原作にした作品や、それらをモチーフとした作品も多い。ミュージカルテイストの作品が多いのも伝統だ。アニメーション映画で何を表現するのか?描くのか?何であればアニメーションという表現が活きるのか。時代の流れの中でCGという表現手法が主となったが、手描きアニメーションの時代から作品を構成するこの基点やコンセプトは大きく変わっていない。かといって旧来の精神性にばかり固執するのではなく、近年でもゲームの世界を舞台とした『シュガー・ラッシュ』、マーベルコミックを原作とした『ベイマックス』、現代社会のあらゆる“壁”への批判性を描いた『ズートピア』など、時代に即した題材にも挑み成功させている。日本風に言えば老舗ののれんを守るにはどのようなことにも挑まなければならないかをやり続けていると言える。

一方でピクサーの革新的な作品作りというのは、物語においてだけではなく、そのデジタル技術も含めてになるだろう。『リメンバー・ミー』では血統というものの中で、何を受け継ぎ、何を守り、そして何を変えるのか?が作品の背骨にあるが、このことはそのままピクサーというスタジオの姿勢でもある。 スティーブ・ジョブズらによって立ち上がった時の主な事業はCG用のコンピューター製造会社だった。ハードメーカーだったのだ。そこに短編CGアニメの部門が出来、やがて長編『トイ・ストーリー』(95)が製作され…となったわけだが、この『トイ・ストーリー』こそ劇場公開された長編映画では初のフルCGアニメーション作品。今でこそ珍しくもないフルCGアニメだが、映画史においてこの作品は一大革命であり事件だった。『トイ・ストーリー』の大ヒットは特にハリウッドを一変させることになり、「アニメーション映画と言えばCG作品」という時代が一気に訪れてしまった。ハリウッドではもはや手描きアニメーション映画は数えるほどだ。(ラセターはこの風潮に異を唱え、09年に一度は無くなっていたディズニーの手描きアニメーション映画製作を復活させることもやっている)

元々がコンピューター製造という、絶えず新しい物を求めなければ生き残れない事業を手がけていたことは、映画製作に向かってからもスタジオとクリエイターたちの精神性として受け継がれ続けているのだろう。どのようなストーリーが斬新であるのか?だけではなく、どのようなCG映像技術が生み出せるのか。ピクサーの作品ではそのCG映像で毎回なんらかの技術的革新への挑戦が行われてきている。たとえば『モンスターズ・インク』のサリーのフワフワの体毛表現。『カーズ』における写実的でスピード感のあるレースシーン。そして『リメンバー・ミー』ではカラフルな死者の国やマリーゴールドの橋の輝き。日進月歩のCG映画の分野において、つねにフロントラインの牽引者であり続けている。CG技術には知識が無い人が見ても、どこかしら「あれ?こんな映像って見たことなかった気がする?!」という驚きが感じられるワンポイントが映画を彩っており、ストーリーの面白さだけではなく、こういった部分もピクサーの魅力なのだ。