その答えはディテールにある。こうしたホビー・レジャー作品の面白さや“何かの拍子”を生み出す要素の1つに、道具などにまつわるエピソードやディテールなどをどれだけきちんと描写できるか、どういう山に行くのか、どういうキャンプ場に行くのか。どういうルートを走るのか、シーズンはいつなのか、それによって準備も道具も異なる。ならその道具は素人にはどれがどうやらわからないが、どう違うのか。 その趣味をもつ人たちだけがわかる内輪受けでは困るが、趣味とする人も頷けるディテールという要素が、そのジャンルそのものを主役の1つにまで押し上げ、いわゆる“オタク性”というこだわりに直結させる。
先に挙げた3作品では原作コミックの時点ですでにこれらの情報がディテールたっぷりに描写されており、実在するメーカーの実在する道具などが登場することも多い。(権利上の都合から「似たメーカー名」にアレンジされていたり、あえてメーカー名は描かれていない場合もあるが) 門外漢からすれば「そういう物があるのか」の情報だが、趣味にする人たちからすれば、どのメーカーの何を選んでいるのか?からもそのキャラクターの性格がうかがえたりする。若いとき、ある映画監督から「タバコを吸う人物であるならその銘柄まで考えろ。何を吸うかでその人物像は変わる」と教えられたのだが、まさにそういうことだ。こういった「ストーリーが面白い」だけでは終わらない満足感が魅力ともなっているが、アニメ化に際してはさらなるロケハンなどによって、描かれているルートや風景の描写も補強されたものとなっている。詳しい人から見ると「マンガをただアニメ化したのでは無く、しっかりロケハンをしアニメならではの魅力を増している」というのがわかる部分も多い。
思い返してみると、意識してなのか偶発なのかは別として、近年のアニメやコミックはそういうことを幾多と生み出してきている。(もちろん大きな反響へと結びついた作品ばかりではないのだが。仕掛けを狙って失敗をした作品だってある) 観光客などまばらであった地に、何かの作品をきっかけにファンが大挙訪れてくるようになるいわゆる“聖地巡礼”と、それがキッカケで新しい趣味を始めるという現象とは実はそれほど違っていない。突き詰めればそこにあるのは「面白いと思ったその作品を、カケラでもいいので実際に自分でも感じてみたい」ということと、「好きな作品の補強や補完をしたい」という気持ちだ。 そうして、それまで未知であった趣味の分野への扉が、思いがけずに開いてしまう。アニメやマンガは部屋の中で見ていれば済むものであると思われがちなのだが、案外とそんな扉が真横に隣接していたりするものだ。
と、1月期アニメを見ながら、南極に行くのはムリだとしても、近場のキャンプ場なら行けるんじゃないかと思ってしまい、書店で初心者向けキャンプ雑誌を手に取ってしまったり、夏期アニメに向けて気がつくとトレッキングシューズ売り場にふらりと寄って物色し始めている自分がいたりして「俺ってチョロいなあ…」などとも思うのだが。けど、それもまたアニメの楽しみ方だ。
出かけるのにちょっと良くなってきた季候のこの時期だからこそ、こういった作品に目を向けてみるのも面白いだろう。もしかしたらそこから思いがけぬ趣味を始めることになるのかもしれない。
文 / 岡野勇(オタク放送作家)