ルーシー、ハリー、ジョンに対しても同様であり、恋の駆け引きよりも各人のいじらしさが際立つ内容に。クライアントを通して人間の身勝手さやワガママさを見続けたルーシーは、条件だけなら完璧なハリーに惹かれていくものの、心のどこかに迷いも生じる。相手を「条件だけ」で選んでいないか?という疑念、完璧すぎて信じきれない/釣り合っているのかわからなくなり引け目を感じてしまう心理――。一方、再会したジョンは変わらずナイスガイで気も合うが、別れざるを得なくなった金銭トラブルもフラッシュバックする。記念日なのに「駐車料金が高い」と揉めてしまい、路上で「愛がないんじゃない、お金がないのよ!」と叫んだあの日のことを‥‥。ルーシーには貧乏生活に疲れ果て、今の仕事を選んだ経緯があったのだ。であればハリー一択では?と言いたくもなるが、厄介なことに頭でそう思ったとしても心がすぐに追随するわけではない。単純なわけでもなく、かといって複雑でもなく、現実感を適度にまぶした三角関係の魅せ方は、『パスト ライブス/再会』でもみられたソン監督の十八番であろう。そこに仕事面でのある“事件”が連動し、ルーシーが岐路に立たされる展開も淀みがない。

ソン監督の人間愛、スターたちのファニーな好演も相まって、物語が進むほど各人がグッと身近に感じられる点も本作の特長だ。マテリアリストに徹せないルーシー、超ハイスペ男子なのにどこか寂し気なハリー、俳優として成功する夢となかなか芽が出ない現実の狭間で苦悩するジョン――全員にどこかしら隙があり、それがゆえに我々は共感/共鳴し、幸せを願いたくなってしまう。この《愛の構造》が、作品全体の結婚観となっていくのが何とも見事だ。
もちろん程度や内容にもよるが、人は不思議と相手に欠点があるから安心できる生き物なのかもしれない。むしろお互いにそのマイナスポイントを微笑ましく思えたり、その人らしさを構成する一要素と思えたなら、きっとこの先も共に生きていけるはず。真実の愛情とは、「理想の条件」の陰に隠れた“裏側”にこそ宿るのだろう。
文 / SYO

ニューヨークの結婚相談所で“マッチメーカー”として働くルーシーは、「天性の婚活カウンセラー」と絶賛され、仕事一筋の多忙な日々を送っていた。また、彼女自身は恋愛を感情だけでなく“資産価値”でも冷静に判断するマテリアリスト(=物質主義者)だ。そんな彼女の人生が、二人の男性との出会いと再会によって激しく揺れ動く。一人はルーシーがマッチングさせたカップルの結婚式で出会った新郎の兄ハリー。身長180cm、気が遠くなるほどリッチな投資家、家柄も人柄も学歴も一流、すべてが“完璧”な彼から情熱的なアプローチを受けたのだ。一方の再会は、その披露宴の席でウェイターをしていた元カレのジョン。互いに愛し合っていたが、俳優を目指してバイトを転々とする彼との貧乏生活に耐えられず、破局した。ルーシーはハリーとの真剣交際に踏み出すが、夢を諦めないジョンへの想いも再燃。そんななか、クライアントがある事件に巻き込まれ、ルーシーは仕事も恋愛も岐路に立たされる。
監督・脚本:セリーヌ・ソン
出演:ダコタ・ジョンソン、クリス・エヴァンス、ペドロ・パスカル
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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2026年5月29日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
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