Dec 07, 2019 column

キャリア最高レベルの演技を披露!『マリッジ・ストーリー』の魅力に迫る

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昨年の『ROMA/ローマ』や、今年の『アイリッシュマン』など、Netflixオリジナル映画の注目作が続くなか、12月6日に配信された『マリッジ・ストーリー』も、ヴェネツィアやトロントといった映画祭で高い評価を受け、アカデミー賞に向けた賞レースに絡む可能性が高まっている。ノア・バームバック監督が自身を投影した絶妙な脚本や、スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーの心を掴む名演技など、『マリッジ・ストーリー』の魅力に迫っていこう。

監督の実生活を反映?リアルな夫婦の会話

Netflixオリジナル映画のクオリティは、ますます上昇している。マーティン・スコセッシ監督の『アイリッシュマン』に続いて、またしてもそう感じさせる作品が現れた。『マリッジ・ストーリー』だ。『アイリッシュマン』とともに、アカデミー賞に至る今年度の賞レースに、Netflixが強く推すであろう一本。“共感度”という点では、非常にハイレベルな作品なのである。

『マリッジ・ストーリー』の物語自体は、とてもシンプル。それぞれの仕事の事情で、離れて暮らすことを余儀なくされた夫婦。幼い一人息子をどうするか…といった問題が絡み、彼らは離婚へと発展する。これまでも『クレイマー、クレイマー』(79年)など多くの名作で語られてきた展開だ。どこか既視感もあるから、感情移入しやすいのも事実。そして、語り口が非常に絶妙なので、誰もが自分のことのように引き込まれてしまう。

ニューヨークで気鋭の舞台監督としてキャリアを積むチャーリーと、その舞台にも出演する女優のニコール。かつてニコールは青春映画などでも人気を得たが、いまは夫のチャーリーが拠点とするニューヨークで暮らしている。そして彼らには、一人息子のヘンリーがいる。そんなニコールに、TVシリーズの主役を演じる話が舞い込んできた。久々に女優として注目を集めるチャンスなのだが、制作現場は西海岸のロサンゼルス。一方で、チャーリーは自分の舞台がブロードウェイに進出するかどうかの大切な時期で、ニューヨークを離れられない。いままで「夫の仕事のために」と、自分を犠牲にしてきたニコールの強い思いもあって、彼らの心はすれ違い、ついに離婚を決意する。とりあえずヘンリーとともにロサンゼルスへ移るニコール。離婚の裁判が続くなか、チャーリーもロサンゼルスに部屋を借り、ニューヨークと行き来する生活が始まった…。

『マリッジ・ストーリー』の監督は、ノア・バームバック。監督・脚本を務めた2005年の『イカとクジラ』でアカデミー賞脚本賞にノミネート。その後も『フランシス・ハ』(12年)、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』(14年)など、多くの作品で自身の生まれ育ったニューヨークを舞台に、味わい深い人間ドラマを紡いできた“ニューヨーク派”の才人だ。現在、バームバックの私生活のパートナーは、『フランシス・ハ』で主演を務め、『レディ・バード』(17年)ではアカデミー賞監督賞・脚本賞でノミネートされたグレタ・ガーウィグ。二人の間には2019年、子どもが誕生している。『マリッジ・ストーリー』の主人公たちも連想させるが、より色濃く反映されているのは、バームバックと前妻の女優、ジェニファー・ジェイソン・リーの関係だ。

『ルームメイト』(92年)や、タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』(15年)で知られるリーと、ノア・バームバックは2005年に結婚。この演出家と女優の夫婦には、男の子が産まれた。しかし2010年ごろに離婚申請が出されたとされ、2013年に正式離婚。その関係性や、息子の状況などが『マリッジ・ストーリー』と酷似している。ノア・バームバックが実生活からインスピレーションを得たのは間違いない。それゆえに、チャーリーとニコールの夫婦生活や会話などが、痛いほど生々しく伝わってくるのだろう。