Dec 07, 2019 column

キャリア最高レベルの演技を披露!『マリッジ・ストーリー』の魅力に迫る

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オープニングの絶妙な“掴み”

単に相手のことが愛せなくなったから、別れるのではない。別れを決意しても、やはり最高のパートナーではなかったかと後悔する…。ある意味、よくあるカップルの心のすれ違いに感情移入するうえで、ノア・バームバックは絶妙な“掴み”で勝負する。映画のオープニングで、チャーリーとニコール、それぞれの長所と短所を相手が説明するシークエンスが、そのあまりのテンポの良さが観る者の心を掴むのだ。

チャーリーから見たニコールは、「負けず嫌い」「贈り物のセンスがいい」「僕を放っておいてくれる」など。

ニコールから見たチャーリーは、「私の機嫌が悪くても耐え、私に罪悪感を抱かせない」「メニューが決められない」、そして(同じく)「負けず嫌い」といった具合。

これらの長所と短所が伏線として、その後のストーリーの重要なポイントで生かされていたりする。冒頭で二人の個性を知った我々観客は、彼らの行きつ戻りつする心の揺れを一緒に味わい、じんわりと胸を熱くしてしまうのである。

主演二人のキャリア最高レベルの名演技

そんなバームバックの演出に応えるのが、主演二人だが、彼らはともにキャリアで最高レベルの演技を披露していると断言してもいい。

ニコール役のスカーレット・ヨハンソンは、じつはこの『マリッジ・ストーリー』の撮影に入る直前に、自身も離婚の問題に直面していた。2013年に結ばれ、2番目の夫となったフランス人ジャーナリスト、ロマン・ドリアックとの間に1児をもうけたスカーレットは、2017年に彼との離婚が成立。バームバック監督とのミーティングで、スカーレットは離婚で悩む心情を吐露したという。まさに彼女自身の当時の境遇が、ニコール役と一致。バームバックだけでなく、スカーレットにとっても“自分をさらけ出した”作品になっているのだ。劇中、弁護士に相談するシーンで、ニコールは徐々に感情を乱し、最後は涙ながらに複雑な思いを訴える。長いワンショットで撮られたこのシーンは、本作でも最大の見どころであるのと同時に、スカーレットのこれまでの演技の集大成という気がする。近年はマーベルのブラック・ウィドウ役や、『LUCY/ルーシー』(14年)などアクション女優としての印象が強いスカーレットだが、『モンタナの風に抱かれて』(98年)など子役時代から発揮し続けてきた彼女の才能を、改めて認識させられるのだ。

同じくチャーリー役のアダム・ドライバーも『スター・ウォーズ』シリーズのカイロ・レン役が有名であるものの、個性あふれる演技派としてキャリアを積んできた。ノア・バームバック監督とは『フランシス・ハ』、『ヤング・アダルト・ニューヨーク』、『マイヤーウィッツ家の人々』(17年)で組んでいるので、監督の分身的存在とも言える。ニコールや息子ヘンリーへの思いと、自分の仕事と葛藤する姿を、時に熱く、時にとぼけた味わいも織り交ぜながら表現するアダムの妙演は、全編にわたって、こちらも忘れがたいインパクトを残す。あえて1か所、挙げるなら“歌”のシーンだろう。アダムが歌う曲は『Being Alive』。ブロードウェイの伝説的存在、スティーヴン・ソンドハイムのミュージカル『カンパニー』の1曲で、バーブラ・ストライサンドら多くのアーティストにカヴァーされ、ドラマ『glee/グリー』などでも使われた名曲だ。『カンパニー』でもクライマックスで歌われ、愛の真実を突きつける役割を果たしている。つまり歌詞がチャーリーとニコールの心情にさりげなく、しかし強烈にリンクするのだ。その思いを、マイクを握って表現するアダム・ドライバーの熱唱は、おそらく『マリッジ・ストーリー』の中でももっとも忘れがたい時間になるはずだ。

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