Nov 17, 2023 column

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は親父たちの挽歌である

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それぞれの鬼太郎と墓場の歴史

鬼太郎は常に時代とともにある。ここで鬼太郎シリーズの変遷をアニメシリーズを中心に振り返りたい。

昭和29年、水木しげるは、鬼太郎シリーズの原点となる紙芝居物語「墓場の鬼太郎」を仕立てる。昭和35年には、貸本漫画版「墓場鬼太郎」を発表。この時期の鬼太郎は、人間の味方ではなく、関わる人間に怪奇な結末をもたらす不吉な少年だった。

貸本人気を得て、昭和40年「週刊少年マガジン」に読み切り作品が掲載されるが、当初、人気はなかったそうだ。それでも「悪魔くん」の成功を経て、水木しげるは人気作家の仲間入りをし、昭和42年「墓場の鬼太郎」が正式に連載開始。

翌年の昭和43年「墓場の鬼太郎」はアニメ化を果たす。このアニメ化の際、スポンサーが「墓場」という言葉に難色を示したことで、タイトルが「ゲゲゲの鬼太郎」と改名された。「ゲゲゲ」という言葉がどこからきたかというと、水木しげる本人が語るには、幼少期、自分の名前を「しげる」とうまく言えず「ゲゲル」「ゲゲ」と言ったことに由来するようだ。

出典:鬼太郎、鉄郎、悟空……歴史的キャラクターを演じ続けてきたレジェンド声優 野沢雅子の裏話より

こうして始まったアニメ第1期(1968年1月3日〜1969年3月30日 CX系)は、全国的に妖怪ブームの火付け役となった。鬼太郎の声を演じた野沢雅子に聞くところによると、当時の勢いは凄まじく、デパートの屋上で催事が行われ、当時はマイクの技術が乏しかったので、毎回、野沢を含めた役者たち本人が着ぐるみを着て声を当てていたそうだ。

2年を経て放映された続編となるアニメ第2期(1971年10月7日〜1972年9月28日 CX系)は、カラー化され、猫娘がレギュラーとなり、公害やサラリーマン社会が生み出した新たな妖怪も登場し、そのときの社会問題を取り上げ、時代を風刺した内容も描かれた。

バブル期の放送となったアニメ第3期(1985年10月12日〜1988年2月6日 CX系)。愛と希望に満ちた新解釈により、初の人間のヒロインとして天童ユメコが登場。また杖や鞭にもなるオカリナが鬼太郎の武器として採用され、人間と共存を望むヒーローものとして描かれた。3期に2代目鬼太郎声優として抜擢された戸田恵子は「野沢さんから引き継ぐことになって本当に緊張した」と語り、初回放送を作画スタッフと共に見届けたという。

アニメ第4期(1996年1月7日〜1998年3月29日 CX系)は、2年にわたって放映された。前シリーズと打って変わり、鬼太郎役に松岡洋子を据え、原点回帰をテーマに掲げ、妖怪たちも原作デザインに忠実に描かれた。原点を意識する一方、作家・京極夏彦脚本によるオリジナルストーリーや、テレビアニメとして、日本初のデジタル制作に挑むなど、革新性もあり、現代アニメを語る上で外すことのできない作品となった。

新世紀になりよみがえったアニメ第5期(2007年4月10日〜2009年3月29日)は、キャラクターデザインを含め、親しみやすさを重視した作風に変更された。高山みなみが演じた4代目鬼太郎は、3期同様、人間よりの思考はあるものの、エピソードの冒頭で人間に恐怖を語りかけるストーリーテラーとしても描かれた。

この頃、実写映画化もされた。『ゲゲゲの鬼太郎』(2007)、『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』(2008)とともに主演はウエンツ瑛士。猫娘役には田中麗奈、ねずみ男に大泉洋、砂かけ婆に室井滋、子なき爺に間寛平といったメインキャストで制作され、実写2作目には、ぬらりひょん役で緒方拳が出演し、これが遺作となる。また、アニメ第1期から第5期まで長年目玉おやじを演じている田の中勇もこの実写映画にもアテレコ出演している。

ねこ娘が8頭身のスタイリッシュなツンデレ美女になり話題を呼んだ第6期(2018年4月1日〜2020年3月29日)。21世紀が始まり20年近くを経て始まったこのシリーズでは、鬼太郎の声を沢城みゆきが担当し、逝去した田の中勇の代わりに、初代鬼太郎を務めた野沢雅子が目玉おやじを演じる。前述した14話の目玉おやじイケメン回でも、野沢が声を担当。特大指鉄砲を放つシーンの録音時は、誰もが心の中で「カ〜メ〜ハ〜メ〜波〜」つぶやいていたとあるスタッフに聞いたことがある。

9年ぶりに刷新した6期は、科学が発達しつつも流言飛語が飛び交う世の中、大人は頼りにならないとスマホ全盛期に妖怪ポストに投書する犬山まなが、2シーズンぶりに、人間のヒロインとして登場する。鬼太郎は、人間と妖怪の境界を大事にし、あくまで中立的な立場で描かれ、丁寧に原作の人気エピソードを下地にしながらも、本当は人間が怖いといった内容が多い印象がある。

貸本からアニメまで、皆それぞれの鬼太郎像があることだろう。形を変え、内容を時流にあわせて昭和から令和まで続いた鬼太郎シリーズ。公開された『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』は、これらすべての始まりを描いた初のアニメで、各世代を納得させる構成であると思う。