Apr 01, 2019 column

朝ドラ100作め「なつぞら」はアニメの黎明期を描く

A A

4月1日(月)から放送開始された、朝ドラこと連続テレビ小説「なつぞら」(脚本:大森寿美男)。

東京大空襲で戦災孤児となったなつ(広瀬すず、幼少期・粟野咲莉)は北海道の酪農家の一家に引き取られすくすく育ち、やがて、アニメーターになりたいと夢を抱いて、生まれ故郷の東京に向かうという物語。

朝ドラ100作目ということ、歴代ヒロインが続々登場するということ、主人公がアニメーションを制作することなどなど、ポイントがたくさんあって、いつも以上に注目されているが、まず第一話は、自然いっぱい、風を感じる広大な北海道・十勝の風景に心惹かれた。

すでに成長したなつが野原で絵を描いているところからはじまって、戦争体験の回想はアニメーション。

オープニングもアニメで、アニメキャラになったなつが動物たちと駆け回る姿に心和む。

これから半年、このアニメとスピッツによる主題歌「優しいあの子」で朝が迎えられるかと思うと、わくわくするばかり。

3月上旬に行われた第一週試写会で、制作統括の磯智明プロデューサーは、「朝ドラでオープニングが全編アニメの作品は記憶にない」と語った。おそらく画期的なことなのであろう。近年だと、「ゲゲゲの女房」(10年)は「ゲゲゲの鬼太郎」とコラボしていたし、「べっぴんさん」(16年)はCGアニメのなかでヒロインが跳ねていた。「ひよっこ」(17年)もミニチュアをつかったCGアニメーション。アニメといってもいろいろジャンルがあって、今回の「なつぞら」はいわゆる漫画の絵を動かすアニメを全編使用することがはじめてということになるかと思う。

もちろんこれは、主人公なつが将来アニメーターになるからで「アニメをつくる人たちの物語であることを印象づけたかった」からと磯プロデューサー。

そもそも、アニメーターの女性を主人公にしたドラマを企画したいきさつは、「(世界的にも)日本のアニメが注目されるなか、アニメの歴史を紐解いていく作品を作ってみたいと思い、調べていくと、アニメの黎明期に女性も参加していることがわかったので、そういう人たちの物語をつくってみたいと思った」から。

アニメーターというと錚々たる男性作家の名前が浮かぶなか、実は活躍していた女性作家に焦点を当てることは、たくさんの女性を描いてきた朝ドラにふさわしいと感じる。女性のみならず、宮崎駿、高畑勲などをモチーフにした登場人物も今後登場するようなので、楽しみだ。

前述した、空襲の記憶のアニメも、「『火垂るの墓』など戦争の時代を描いたすばらしいアニメーションに少しでも近づければと思って制作した」と言う磯プロデューサー。アニメーション時代考証に「アルプスの少女ハイジ」「母をたずねて三千里」などの小田部羊一、アニメーション監修にスタジオジブリ出身の舘野仁美を迎え、制作体制は盤石。空襲の回想アニメは、業界では名のある方に参加してもらっているそうだ。

オープニングアニメを制作(キャラクターデザイン、演出、原画)したのは、1996年生まれの刈谷仁美。彼女のほか、制作スタッフ(舘野が代表をつとめるササユリと、東映アニメーション)は二十代の女性が多く、「なつぞら」の時代のアニメーションをリアルタイムでは知らないながら、当時のアニメにオマージュを捧げるように作ったという。

昔といまの融合になっているところと、あえて女性ばかりで作ったところが、興味深い。女性らしい柔らかさを感じるなどと書くと、昨今、男女差別になりそうだが、きっと二十代の女性が集まって作った個性というのは形成されているだろう。それがどういう部分に見出すか見た人が自由に感じればいいのだと思う。

試写での磯プロデューサーの話で興味深かったのが、主人公を戦争孤児の設定にした理由だ。

60年代のアニメには、『あしたのジョー』『みなしごハッチ』『タイガーマスク』など親のいないこどもを描いたものが多く、戦争で傷ついた方たちへのメッセージがあったのではないかと思う。当時のアニメは子供向けに作られていて、子どもたちにメッセージを込めてアニメを作るなつを、戦争孤児に設定することで、彼女の思いがより明確になるのではないかと考えた」と言う。

なるほど、アニメがなぜ生まれ、広がっていったか、その歴史が物語の底に流れているのだ。アニメをモチーフにしたドラマに真摯に取り組んでいる信頼感を覚えた。

これから半年、アニメのオープニングが流れ、子供向けのアニメがはじまったのか? と最初のうちは面食らう人もいるかもしれないが、すぐに慣れるし、楽しみになっていくと思う。

第一週「なつよ、ここが十勝だ」は、十勝に引き取られたなつが、酪農の手伝いをしながら、柴田家にじょじょに馴染んでいく様子を描く。

なつの幼少期を演じる粟野咲莉が表情豊かで魅力的。広瀬は「幼少期のなつに感情移入して号泣してしまった」と語るほど。小さい体で懸命に生きようとする様子がほんとうに泣ける。

なつに厳しいながらも愛情をもって接するおじいさん・泰樹を演じる草刈正雄は「究極の頑固親父を演じている」と語り、その姿がじつに頼もしい。

婿養子でちょっと気弱なお父さんの藤木直人も、あたたかいお母さんの松嶋菜々子も華があって、その仕草に見入ってしまう。ほかにも、たくさんのすてきな登場人物が出てくる。

なつがアニメに惹かれていくきっかけも描かれていて、期待が膨らむばかり。

登場人物もエピソードてんこもり、みどころいっぱいの第一週だ。

文・木俣冬

番組情報

連続テレビ小説「なつぞら」

NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~ BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~ 1週間まとめ放送 土曜9時30分~

脚本:大森寿美男 演出:木村隆志 田中正ほか 音楽:橋本由香利 キャスト:広瀬すず 松嶋菜々子 藤木直人 岡田将生 比嘉愛未 工藤阿須加 吉沢亮 安田顕 仙道敦子 音尾琢真 戸次重幸 山口智子 柄本佑 小林綾子 高畑淳子 草刈正雄ほか 語り:内村光良 主題歌:スピッツ「優しいあの子」 制作統括:磯智明 福岡利武

木俣冬

文筆家。主な著書に「ケイゾク、SPEC、カイドク」(ヴィレッジブックス)、「SPEC全記録集」(KADOKAWA)、「挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ」(キネマ旬報社) 、共著「おら、あまちゃんが大好きだ! 1、2」(扶桑社)、「蜷川幸雄の稽古場から」、構成した書籍に「庵野秀明のフタリシバイ」、ノベライズ「マルモのおきて」「リッチマン、プアウーマン」「デート?恋とはどんなものかしら?」「恋仲」「IQ246~華麗なる事件簿」など。 初めて手がけた新書『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)が発売中! その他、エキレビ!で毎日朝ドラレビュー連載。ヤフーニュース個人でも執筆。 otocotoでの執筆記事の一覧はこちら:https://otocoto.jp/ichiran/fuyu-kimata/

SHARE
このエントリーをはてなブックマークに追加

RANKING

  • 2日間
  • 週間
  • 月間
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10