Jan 19, 2024 column

『ゴールデンカムイ』は、なぜ原作漫画を再現できたのか

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無色透明な装いをまとったヒーロー・山﨑賢人

近年における山﨑賢人の活躍は、目を見張るものがある。『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(2017)、『斉木楠雄のΨ難』(2017)、『キングダム』シリーズ(2019〜)と、立て続けにジャンプ原作映画に主演したかと思えば、『ヲタクに恋は難しい』(2020)では重度のゲームオタクを演じ、『劇場』(2020)では又吉直樹原作の文芸作品に挑戦。4月19日から公開される『陰陽師0』では平安時代の最強陰陽師・安倍晴明を演じ、主演を務めたNetflix人気ドラマ「今際の国のアリス」も、シーズン3の配信がアナウンスされたばかり。とにかく大作・話題作に出まくっている。

圧倒的なヒーロー感を醸しつつも、どこか脱力した空気感でコメディも器用にこなす。現代が求める主人公像に、全方位的に適応してしまう稀有な人材なのだ。しかも彼はーーー個人的にはこれが最も特筆すべきポイントだと思うがーーータイトル・ロールを演じる主役でありながら、映画のトンマナにうまく収まり、その存在感が作品を飛び越えてバランスを狂わすことは絶対にない。いい意味で、座標軸ゼロの無色透明な装いをまとえる役者なのだ。

だからこそ、尾形百之助役の眞栄田郷敦、月島基役の工藤阿須加、鶴見篤四郎役の玉木宏、土方歳三役の舘ひろしのパンチの効いた芝居が際立つ。まさしく“全員が主人公”の『HiGH&LOW』のように、見せ場が見せ場として活きるのだ。筆者がこの『ゴールデンカムイ』で最も感じたことは、キャスティングの妙によってキャラクターの魅力が全開していることである。

今作の監督に迎えられた久保茂昭はハイローismを継承し、アクションはとことん派手に演出。そしてコミックに濃厚に刻まれている残酷描写も、絶妙にチューニングしてみせる。ヒグマの攻撃で顔が剥がれるシーンもそのまんま描写しているのだが、カメラを巣穴奥に設置することで、ショックを程よく中和しているのだ。見事な計算といえるだろう。

実はこの映画、驚くほど原作を忠実になぞっている。オリジナルのストーリーやキャラクターを付け足すことはほとんどなく、野田サトルが創造した世界を丁寧に再現。だが今回描かれているのは、全31巻のうち第3巻の途中まで。正直ラストのアクション・シークエンスは、クライマックスにしてはやや食い足りない印象もあった。だがその不満は、きっと作られるであろう第2作以降で解消されることだろう。

我々は、伝説の第一章を目撃したばかりだ。

文 / 竹島ルイ

作品情報
映画『ゴールデンカムイ』

舞台は気高き北の大地・北海道。時代は、激動の明治後期。「不死身の杉元」と異名を付けられた日露戦争の英雄・杉元佐一は、ある目的のために大金を手に入れるべく、北海道で砂金採りに明け暮れていた。そこで杉元は、アイヌ民族から強奪された莫大な金塊の存在を知る。金塊を奪った男「のっぺら坊」は、捕まる直前に金塊をとある場所に隠し、そのありかを記した刺青を24人の囚人の身体に彫り、彼らを脱獄させた。囚人の刺青は24人全員で一つの暗号になるという。そんな折、野生のヒグマの襲撃を受けた杉元を、ひとりのアイヌの少女が救う。「アシㇼパ」という名の少女は、金塊を奪った男に父親を殺されていた。金塊を追う杉元と、父の仇を討ちたいアシㇼパは、行動を共にすることとなる。

監督:久保茂昭

原作:野田サトル「ゴールデンカムイ」(集英社ヤングジャンプ コミックス刊)

出演:山﨑賢人、山田杏奈、眞栄田郷敦、工藤阿須加、栁俊太郎、泉澤祐希、矢本悠馬、大谷亮平、勝矢、高畑充希、木場勝己、大方斐紗子、秋辺デボ、マキタスポーツ、玉木宏、舘ひろし

配給:東宝

©2024映画「ゴールデンカムイ」製作委員会

2024年1月19日(金) 全国公開

公式サイト kamuy-movie