Jan 19, 2024 column

『ゴールデンカムイ』は、なぜ原作漫画を再現できたのか

A A
SHARE

ハイローismを継承した演出術、キャスティング

本作の監督を務めているのは、久保茂昭。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS、GENERATIONS from EXILE TRIBE、E-girlsなどのLDH系グループをはじめ、安室奈美恵、倖田來未、DREAMS COME TUREなど、トップ・オブ・アーティストのミュージックビデオを500作品以上手がけてきたディレクターだ。『ROAD TO HiGH&LOW』(2016)を皮切りに、映画『HiGH&LOW』シリーズの演出も担当している。

HiGH&LOW‥‥ハイローの魅力は、なかなか一言では語り尽くせない。筆者はいわゆるヤンキー系作品が苦手なタチだが、それでもハイローにはどっぷりハマってしまった。架空の巨大都市SWORD(スウォード)地区を舞台に、山王連合会、White Rascals、鬼邪高校、RUDE BOYS、達磨一家の5チームがシノギを削るバトル・アクション。雨宮兄弟、コブラ、村山、スモーキー、日向といった個性豊かなキャラクターたちが躍動し、数多くのファンを沼らせた。

コンセプトは、“全員が主人公”。絶対的な主役を配置せず、各登場人物ごとに見せ場をたっぷり用意することで、誰か1人は必ず推しが見つかる戦略がとられていた。派手なアクションも魅力だが、それ以上に“キャラ”の魅力を全面的に押し出したのがミソ。企画・プロデューサーHIROの才覚が冴え渡っている。

実写版『ゴールデンカムイ』に久保茂昭を起用したのは、そんなハイローのエッセンスを注入しようとする意図があったのではないか。ハイローは五つ巴の群衆劇だったが、本作も杉元とアシㇼパ、第七師団、旧新撰組の三つ巴バトル。個性的キャラの博覧会という意味でも、『ゴールデンカムイ』は負けてはいない。凄腕スナイパーの尾形百之助、脱獄王の白石由竹、興奮すると脳から汁が漏れ出す(!)鶴見篤四郎、元新撰組・鬼の副長、土方歳三‥‥。クセツヨな面々がそろっている。

特に今回の映画化にあたって唸らされたキャスティングは、白石を演じる矢本悠馬。子役として俳優デビューし、朝ドラや大河ドラマ、数々の映画で印象的な演技を披露。個人的には、『センセイ君主』(2018)でカラオケを熱唱する高校生役がサイコーだった。原作の白石も陽気な遊び人キャラだったが、矢本は登場した瞬間に“陽”の空気を画面いっぱいに溢れ出させる。個性派俳優としてキャリアを積んできた彼にとっても、今回の白石役はキャリアの転換点になり得るビッグ・ロールだ。

そして、アシㇼパ役の山田杏奈。原作ではおそらく10代前半という設定だが、彼女は今年で23歳。山田自身も「年齢や身長など原作と異なる部分に不安も感じましたが、自分に任せていただいたことに責任を持って演じようと覚悟しました」とコメントしている。だが、凛とした強さと子供のような無邪気さが同居したアシㇼパを、山田杏奈は実年齢も身長も飛び越えて熱演。ルックではなく存在感で、原作ファンを納得させてしまう。

そして特筆したいのは、もう1人。もちろん主人公の杉元佐一を演じる山﨑賢人だ。