Jan 27, 2024 interview

久保茂昭監督が語る 原作への愛、アイヌへのリスペクトが生み出した『ゴールデンカムイ』

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激動の明治末期、日露戦争を生き延びた元軍人杉元が、アイヌの少女アシㇼパと共に北の大地でアイヌ民族から奪われた莫大な金塊の行方を追う。同じく金塊を狙うのは、大日本帝国陸軍第七師団と新撰組の残留。北海道を舞台に、埋蔵金をめぐる三つ巴のサバイバル・バトルが始まるーー。

2014年に「週刊ヤングジャンプ」で連載を開始した野田サトルの超大ヒットコミック『ゴールデンカムイ』が、2022年ついに完結した。その独特の世界観から「実写化は不可能」とされていたが、「原作を映像で忠実に表現する」というコンセプトのもと、映像化に向けた一大プロジェクトが始動、この度完成した。『キングダム』シリーズなどで高い評価を得た山﨑賢人が主人公の杉元を、山田杏奈がアシㇼパを演じるほか、若手からベテランまでの個性豊かな俳優陣が脇を固める。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は『ゴールデンカムイ』の久保茂昭監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。

嬉し泣き、直後のパニックからの北海道一人ロケハン

池ノ辺 今回、『ゴールデンカムイ』の監督に決まったと聞いたときはどう思われましたか。

久保 もともと原作の大ファンで、最終の選考に残っているとは聞いていたんですが、まさか自分に決まるとは思っていなかったんです。プロデューサーの松橋(真三)さんから「決まりました」という電話を受けたときには、普通に泣いてしまいました。

池ノ辺 それは嬉し泣きですね。

久保 そうですね。単純に嬉しいのと、ここまでの大作の映画化というのはやったことがなかったんで、その喜びもありました。でも15分後には頭が真っ白になってしまって‥‥。「どうしよう」「何から始めればいい?」「本当に撮れるのかな」「WOWOWさんや(本作制作プロダクショションの)クレデウスさんはどこまで描こうと思っているんだろう」といったことがすごく気になってきて、もう居ても立ってもいられず、始動する前に自腹で一人で北海道に飛んじゃいました(笑)。

池ノ辺 一人で下見に行ったんですか!

久保 最初は、近くでアイヌに関する展示会か何かがやってないだろうかと調べて、そこに行って。でもそれだけじゃ足りないと思って、二風谷(にぶたに)やウポポイに行かなくちゃと。とにかく原作の野田サトル先生のブログをチェックしていましたから、先生が取材したところを回っていきました。

池ノ辺 原作の舞台がどんなところなのか、そこでどんなふうに撮ればいいのかを少しでも先に知りたかったんですね。

久保 明治時代、北海道でアイヌ、そういうのは映画でもなかなか前例がなくて、実際どこまで作り込めるのかもわかりませんでした。でもいろいろ回っていくと、例えば北海道開拓の村では、当時の建物が残っていたり、どうやってアイヌの家や村を作ってきたのかがわかったり、そうしたことがだんだん見えてきて、これはもう一刻も早くスタッフに伝えたいと、その頃には逆に前のめりな気持ちになっていきました(笑)。

池ノ辺 キャスティングも素晴らしかったです。それはどうやって決まっていったんですか。

久保 僕が決まったときには山﨑賢人くんなど一部はもう決まっていました。そのほかのキャスティングに関しては、松橋さんとWOWOWさん、集英社さんなども絡みながら進めていって、もちろん僕もアイデアを出させてはもらいましたが、僕はどちらかというと、どういう現場でどう撮るのか、そこに集中してくれと言われて、そこに注力することができました。

これは松橋さんがすごいと思うんですが、本当にぴったりのキャスティングだったんです。それぞれの役者さんのバックボーンとか芯のところに、原作のそれぞれのキャラクターと重なる部分がある。それが、会って話をしたり撮影を進める中で見えてくるんです。驚いたし、撮っていてゾクゾクしました。

池ノ辺 以前『キングダム』のインタビューの際に、松橋さんにどうやってキャスティングを決めているのかと伺ったことがありまして、松橋さん曰く、「いい人」だそうです(笑)。

久保 確かに皆さんいい人でした(笑)。