Jul 30, 2022 column

もはや選択肢はなく、前に進むしかない黙示録以後の世界を描く シリーズ最終作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』

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恐竜もまた進化する

ジュラシック・ワールド三部作からは、オーウェン(クリス・プラット)とクレア(ブライス・ダラス・ハワード)の2人を主軸にした物語に移行する。主人公の人物像はジュラシック・パーク・シリーズとは趣きが異なっている。特にJ・A・バヨナの手掛けたシリーズ第五作『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(18)以降のオーウェンには、冒険者であり研究者的な佇まいだったこれまでの登場人物たちとは大きく毛色の違う、どこかジェームズ・ボンドの映画のようなスーパーヒーローのイメージが強まっている。オーウェンは『新たなる支配者』で、猛スピードのバイクで路地を駆け抜けるボンド映画のようなアクションすら披露している。クレアもまた、屋根から屋根に飛び移る軽快なアクションを披露している。『新たなる支配者』には、スパイアクションの要素さえ盛り込まれている。

『新たなる支配者』には雪原のイメージが、シリーズで初めて登場する。雪原の大風景の中を馬に乗って駆けていくオーウェンのイメージは、どこか西部劇に出てくるヒーローのようだ。「西部劇×恐竜」を描いた『恐竜グワンジ』(69)からインスピレーションを得たイメージとのことだが、オマージュ以上にMCUで活躍するクリス・プラットという新世代のスーパーヒーローのイメージが先行している。

そして本作では『ジュラシック・パーク』のオリジナルキャストの3人が揃い、マルチバース的な空間を形成することになる。トレボロウはアラン・グラント博士(サム・ニール)、エリー・サトラー博士(ローラ・ダーン)、イアン・マルコム博士(ジェフ・ゴールドブラム)の旧キャスト陣を、決してゲスト出演のようには捉えていない。

3人は物語の後半の背景に脇役として出演しているのではなく、むしろオーウェンやクレアと同等の立場で率先して困難の矢面に立ち続ける。ここが本作の特色ともいえる。『ジュラシック・パーク』でティラノサウルス・レックスの誘導に失敗したマルコム博士が、あのときの汚名を晴らすようなシーンが本作には用意されている。ギガノトサウルスを前にしたマルコム博士は松明を手に取り、30年近く前の彼とは違う方法で危機を乗り越える。

「コリンとの最初の会話では、彼はカメオ出演には興味がないことを伝えてきました。オーウェンとクレアの物語、そしてアランとエリーの物語を同時に、そして全員を対等に語るために戻ってきてくれないかという話でした」ー ローラ・ダーン (出典:AVclub [Jurassic World: Dominion star Laura Dern on the creative, cinematic, and cultural changes sparked by the franchise]

人物の描き方に変遷=成長があるように、恐竜の描き方にも進化の変遷がある。かつて『ジュラシック・パークⅢ』の恐竜たちは、アイコンタクトや鳴き声でコミュニケーションを交わしていた。恐怖の対象でしかなかった恐竜が、唐突に感情を表現し始めたことが重要だった。『ジュラシック・ワールド』では、恐竜は水族館のイルカのようにショーの見世物として既に手なずけられており、オーウェンは手を差し出して「待て」のポーズをとることで恐竜の信頼を得ることさえできる関係になっていた。そして『炎の王国』では、恐竜はついに人間を欺く技術さえ身につけていた。恐竜たちが感情を持っていること、そして知性を持っていることは、シリーズを重ねるごとに、どんどん進化した形で描かれている。

その中心に本シリーズのマスコット的なキャラクターともいえるブルー(ヴェロキラプトル)がいる。それでもジュラシック・シリーズは人間と恐竜のコミュニケーションを特殊能力として扱わないことに注意を払っている。オーウェンの手を差し出すポージングは、彼のスーパーヒーロー化を予見する身振りではあったが、超能力ではないのだ。