Jul 30, 2022 column

もはや選択肢はなく、前に進むしかない黙示録以後の世界を描く シリーズ最終作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』

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スティーブン・スピルバーグによる『ジュラシック・パーク』は、エンターテイメント大作でありつつ、あらゆるジャンルを縫合すると同時に、未来に起こり得る問題への多様なテーマを問いかけていた。シリーズ最終作に位置付けられる『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』は、スピルバーグの30歳年下にあたるコリン・トレボロウが『ジュラシック・ワールド』以来の監督を務めている。

この最終作でトレボロウはスピルバーグの広げた映画的資産を継承することだけでなく、ジュラシック・シリーズという一大フランチャイズ映画がいったい何(者)だったのか?を解き明かそうとしている。既に恐竜たちは島へ隔離されることなく、この世界に解き放たれてしまっている。『新たなる支配者』は、黙示録以後の物語を語り始めている。

もはや選択肢はなく、前に進むしかない黙示録以後の世界を描く シリーズ最終作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』

ジャンル=スピリットの継承

アトラクション映画であり、アドベンチャー映画であり、SF映画であり、恐怖映画であり、戦争映画でもあり、そのすべてを一本の映画の中にテーマパークのように敷き詰めたスティーブン・スピルバーグによる金字塔『ジュラシック・パーク』(93)。スピルバーグはこの第一作で、あらゆるジャンルを奇跡的なバランス感覚で縫合させた。ジャングルに迷い込んだ探検家たちを描くように演出された夜。そして雨による地面のぬかるみ。高低差を活かした落下。窓の外から覗く恐竜の顔。スピルバーグの演出効果は絶大だった。

そして後世の語り草となっていくティラノサウルス・レックス襲撃シーンの震えるような恐怖は、スピルバーグが超一流の映画作家であることを未来永劫に証明し続けている。この名シーンにはプリミティブな驚きがある。スピルバーグの演出は、大人のバランス感覚に加え、生まれて初めて映画に接した子供の驚きのような感覚を忘れていない。いまもって映画芸術における最高の恐怖演出の一つといえるだろう。

『ロストワールド/ジュラシック・パーク』(97)を経て、スピルバーグの跡を継いだジョー・ジョンストンによるシリーズ第三作『ジュラシック・パークⅢ』(01)では、登場人物が徹底的にジャングルを彷徨い続ける。この第三作目は、あたかも泥沼に陥ってしまった戦争をメタファーとして描いているような印象すら受ける。スピルバーグがこのシリーズに敷き詰めたジャンル映画の一要素を敢えて顕微鏡で拡大するかのように見せることで、ジョンストンはこのシリーズのスピリットを正しく継承したといえる。ジャンルを進化させることよりも深化させることを選んだジョンストンの態度は圧倒的に正しい。ジュラシック・シリーズは最新作に至るまで黙示録的な様相を帯びている。

もはや選択肢はなく、前に進むしかない黙示録以後の世界を描く シリーズ最終作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』

そしてスピルバーグより30歳年下のコリン・トレボロウの手掛けた『ジュラシック・ワールド』(15)では、恐竜がサファリパーク的な興行ではなく、もはやアトラクション興行の一部としてテーマパークに組み込まれている。隔離されていたはずの恐竜の島は、いつの間にかファミリーで訪れる楽しいテーマパークに変貌していた。ジュラシック・ワールド三部作は恐竜との共存をテーマにしている。

スピルバーグは遺伝子操作によって恐竜を再生させる人間の身勝手さを描いたが、それは観客を魅了するためにどこまでがエンターテイメントとして許されるのか?という倫理感への問いでもあった。その意味において、トレボロウが動物園や水族館であるかのように恐竜を飼い馴らす「安心のテーマパーク」からジュラシック・ワールド・シリーズをスタートさせたのは、シリーズの主題を描く上で筋が通っていた。

私たちの世界で安心と恐怖は常にコインの裏表の関係にある。ましてや恐竜の放たれた世界で安心を買うことなど、もはや不可能なことだろう。トレボロウもまたスピルバーグの残した映画的資産を見事に継承している。『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(22)の冒頭で恐竜の赤ちゃんから逃げ惑う少女の映像が挿入されるのは、『ロストワールド』の浜辺のシーンへのオマージュだが、そういった画面の設計以前のスピリットの部分でトレボロウはスピルバーグの意匠を継承している。身勝手な人間の操作が生み出してしまった「恐竜との共存」というシリーズのテーマについて、トレボロウは次のように語っている。

「私たちにはもはや選択肢はないということです。これは私たちがずっと昔に行った選択の結果なのです。もしかしたらもっと前の世代が行った選択なのかもしれません。(恐竜たちを)箱に戻すことはもうできません。前に進む方法を見つけなければならないのです。今の私たち(地球人)のようなものですね」ー コリン・トレボロウ (出典:FirstShowing.NET [Interview: Filmmaker Colin Trevorrow Talks Dinosaurs & Hollywood]