May 14, 2026 column

スター誕生! マイケルの甥、ジャファー・ジャクソン主演の伝記映画『Michael/マイケル』の米反響 (vol.87)

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現実逃避だから、より切ない物語『マイケル』

ジャネット・ジャクソンのいないジャクソン・ファミリーの伝記映画があっていいのだろうか。ジャネットだけでなくマイケルの弟ランディも登場しないこの映画。米批評家が疑問視した内容はさまざまだが、伝記映画は必ずしも、主人公の全てを語らない。あくまでも映画はフィクションで、作り手の視点によって描かれる人物像は大きく変わる。その前提を踏まえて観るべき作品だ。

確かなのは、エンターテインメント映画を追求するプロデューサー、グラハム・キングの映画製作の手腕。彼が抜擢した監督アントワン・フークワは、映画『トレーニングデイ』(2001) で主演のデンゼル・ワシントンをアカデミー主演男優賞受賞に導いた、アクションの魅力を引き出せるベテラン監督。フークワ監督はマイケル・ジャクソンと直接面識はなかったものの、デンジャラスのアルバムの中の一曲、「リメンバー・ザ・タイム」のミュージック・ビデオの撮影依頼を本人から受け、電話で会話したことがあるそうだ。その当時撮影していた映画とのスケジュールが合わず、依頼を断ったそうで、エディ・マーフィーがエジプトのキングの役で出演しているミュージック・ビデオはジョン・シングルトンが監督した。フークワ監督はある意味、マイケル・ジャクソン自身本人が信頼していた監督である。

今回、グラハム・キングから依頼された際、マイケル・ジャクソンを演じられる俳優がいるのだろうかと半信半疑だったそうだ。しかし、ある写真を見せられ、それがマイケルではなく、彼の甥ジャファー・ジャクソンだったことを明かされて、驚いたのだそう。

主演俳優として抜擢されたジャファー・ジャクソンはマイケルの兄ジャーメイン・ジャクソンの元妻との子供。彼は、両親の離婚で、マイケルの母キャサリンの元で弟とともに育てられた時期があったそうだ。最初は、俳優やシンガーをめざしていたわけではなかったそうだが、彼は米芸能界を渡り歩いた芸能ダイナスティの血筋。屈託のない笑顔で、どこかあどけなさを残すジャファーがいなければ、この映画も成り立たなかったのではと思わせるほど、抜群の魅力がある。

プロデューサーのグラハム・キングはそのルックスにカリスマ性を見抜き、あらゆる特訓で俳優としての技能を習得させて、その可能性を引き出した。ジャファーのルックスはチャーミングで、シャイで人懐っこいところも、どこかマイケルを彷彿させる。しかし、役者として仕上がったものの、実際に人前で演技ができるのかなど確証はなかったと、グラハムはあとで告白している。ジャファーの演技力はフークワ監督もうなずくほどに大役を果たし、映画は大成功。歌に踊りにと、天才的だった叔父マイケル・ジャクソンのパフォーマンスを習得したジャファー・ジャクソン。80年代のマイケル・ジャクソンの歌や踊りに魅了されたMTV世代が震える内容がそこにある。当時、それまで見たことがないほどに斬新だった「スリラー」や「ビート・イット」など、MTVで流れるミュージックビデオに感銘し、映像を何度も繰り返して見たMTV世代にとって、それらの再現されたシーンは、脳裏に残っていた残像を呼び起こすかのようで、胸がジーンと熱くなるに違いない。

さらには、ジャクソン・ファミリー時代の、幼いマイケル・ジャクソンを演じる少年役に抜擢された現在12歳の俳優ジュリアノ・ヴァルディの歌と演技もまた躍動感があって微笑ましい。彼は父方にエクアドル系とラテン系黒人のルーツを持つ俳優だ。演技も歌も愛らしく、厳格な父のもとで萎縮する様子や、シャイで友達の作れない孤独感、クィンシー・ジョーンズに出会い、兄たちとは別の運命を歩き始めるマイケルのシーンもまた感慨深く、作品が現実の暗部から距離を置いているからこそ、その切なさが胸を掻き立てる内容になっている。