Aug 11, 2023 column

第35回:誕生から64年の人形「バービー」が、全米大ヒット映画『バービー』となってアメリカ人が熱狂的に支持したワケ

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グレタ・ガーウィグ監督のこだわり(ネタバレあり)

この映画がヒットした理由は、グレタ・ガーウィグという女性監督の力が大きい。どんなIPを使っても、出来上がりはグレタの映画。この映画『バービー』映画に込められたテーマの中には、彼女自身が監督した映画『レディ・バード』(2017) でも見られた母と娘の葛藤がある。バービー人形の誕生から60年以上経った現在、バービーで遊んだ世代が、娘とのコミュニケーションがとれず、そのフラストレーションをぶちまけるシーンはこれぞ、グレタ監督映画と納得する女性も多かったようだ。

そのモノローグは、人気テレビシリーズ「アグリー・ベティ」で人気を博したメキシコ系アメリカ人女優アメリカ・フェレーラによってぶちまけられる。ロサンゼルス・タイムズは、女優フェレーラが演じた役グロリアの全モノローグが掲載されるほどに、どんなIPでも、グレタ監督が描く女性の葛藤が、この映画の核となっていることを評価している。

「It is literally impossible to be a woman ― You are so beautiful, and so smart, and it kills me that you don’t think you’re good enough…  (モノローグはこの4倍続くので、以下、一部だけ直訳)I’m just so tired of watching myself and every single other woman tie herself into knots so that people like us. And if all of that is also true for a doll just representing a woman, then I don’t even know.」

「女性でいることはほぼ不可能といってもいいくらいよ。あなたは(バービー人形に対して)はとても美しいし、スマートなのに、あなたでさえ、それでもまだ不十分だと思ってるなんて、私にとってはがっくりだわ‥‥私は自分自身、他の女性たちが、一生懸命、こぎれいに身を繕って、人々が私たちを好きになってくれるように努力しているのにうんざりなの。もしも、それが女性を代表するだけの人形(バービー人形)にとってもそうなら、もう何を考えていいかわからないわ。」

グレタの脚本では、女性の本音だけでなく、人形の本音、そしてバービーランドの男たちの本音も大きく浮き彫りになる。舞台は、映画『トイ・ストーリー』のように、バービーランドの人形たちの物語から始まるが、その人形で遊んだ人間との関係性がバービーランドの異変を起こし、バービーランドとリアルな世界との行ったり来たりで、バービーやケンのアイデンティティが明確になっていくという構成である。

物語を大きく動かすのが、バービーランドのケン。映画の中でたくさんのバービーが登場するように、あらゆる人種のケン人形も登場する中、マーゴット・ロビーが扮するバービーを愛し、彼女を愛するがゆえに、そのバービーランドの男性として、疎外感に苦しむという複雑なケンを演じるのが、俳優ライアン・ゴズリング。ブリーチブロンドに髪を染めたビーチボーイのケン役がロサンゼルスのベニスビーチに現れるシーンには思わず笑いがたちこめ、映画『ラ・ラ・ランド』(2016) で見せたニヒルでスタイリッシュな動きとはまったく違う、コメディあふれる演技力では、この映画の大きな見どころの一つとなっている。

ゴズリングは、IMDbのインタビューで、グレタ監督は「こんなシーンを思い出してほしいのと、ジャック・タティのフランス映画を例にすることもあれば、ネットフリックスのリアリティ番組『ラブ・イズ・ブランド』を例えるなど、頭の回転の早い監督だった語っている。まさに、女優ヘレン・ミレンのナレーションつきの冒頭で、スタンリー・キュービックの『2001年宇宙の旅』をもじったバービーが登場するシーンなど、映画ファンならではの楽しいシーンも盛り込まれている。

ライアン・ゴズリングも、このコラムで前述したクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』とともに、アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされるのではとすでに噂されている。『バービー』はコメディ、『オッペンハイマー』はシリアスなドラマ。この両方が7月、同時に公開されただけで、アメリカで”バーベンハイマー”という言葉がSNSで浮上したわけではない。映画の内容が似通っている部分は一切ないが、両作品ともに、エンタメと政治の距離が近づいた社会派ドラマになっていて、両作品とも観ようという動きが、とんでもない宣伝文句やイメージとなっていったことは残念である。エンタメだけで楽しみたい人にとっては、バービーにトップを奪われたトム・クルーズ主演『ミッション・インポッシブル デッド・レコニング パート1』もディズニーランド感覚でおすすめである。

文 / 宮国訪香子

作品情報
映画『バービー 』

すべてが完璧で、毎日がハッピーな〈夢〉のような世界、バービーランド。ある日突然身体に異変を感じたバービーは人間世界へ。完璧とは程遠い人間の世界へ行き知った“世界の秘密”とは?バービーの最後の選択とは?

監督・脚本:グレタ・ガーウィグ

脚本:ノア・バームバック

出演:マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、シム・リウ、デュア・リパ、ヘレン・ミレン

配給:ワーナー・ブラザース映画

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公開中

公式サイト barbie-movie.jp

宮国訪香子

L.A.在住映画ライター・プロデューサー
TVドキュメンタリー番組制作助手を経て渡米。 ニューヨーク大学大学院シネマ・スタディーズ修士課程卒業後、ロサンゼルスで映画エンタメTV番組制作、米独立系映画製作のコーディネーター、プロデューサー、日米宣伝チームのアドバイザー、現在は北米最大規模のアカデミー賞前哨戦、クリティクス・チョイス・アワードの米放送映画批評家協会会員。趣味は俳句とワインと山登り。