Jul 26, 2023 column

第34回:核兵器への脅威と疑問を投げかける ! クリストファー・ノーラン監督 最新作『オッペンハイマー』

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ハリウッド映画史における原爆投下の物議

ロサンゼルス・タイムズでは通常の映画批評のほかに、「ウィキ・リークスの時代」など、社会派な内容を追跡する著名ジャーナリスト、グレッグ・ミッチェルが、映画『オッペンハイマー』の公開とともに、今までに原爆をテーマにしたハリウッド映画を紹介。ハリウッドはD-day ( ノルマンディー上陸作戦 ) など、何度も第2次世界大戦に関する映画を製作してきたが、広島・長崎の原爆投下に関してはほぼ沈黙、躊躇し、物議になることを避けてきたことを解説しながら、ノーラン監督が描いた『オッペンハイマー』がハリウッドでアメリカの原爆弾投下を題材にした4作目になる映画史を検証。

第1作目が1947年の秋、『初めか終わりか』は実際に、核兵器の危険性を訴えた科学者たちの警告に基づいたセミ・ドキュメンタリー映画だったが、トルーマン大統領、マンハッタン・プロジェクトにかかわったレスリー・R・グローブス准将の監修のもとに内容を大きく変更された映画。2作目が1953年、同じくMGMによって製作されたロバート・テイラーとエレノア・パーカー主演の映画『決戦攻撃命令』で、エノラ・ゲイのパイロットを主人公にした戦争映画。そのあと約40年後、1989年の『シャドー・メーカーズ』が3作目。ミッチェル記者は、「映画としての魅力は全くないが、ただ一つ、ニュー・メキシコ州のロス・アラモス市に建設された秘密基地で、科学者が死んでいたことに触れている事実は新しい。」と評価している。実際に、核兵器開発のもとで、表にでてこなかった体験談はたくさんあり、核兵器開発前に、ロス・アラモス市に住んでいた牧場主が土地を立ち退かされ、政府のブルドーザーで全てを失ったことや、仕事を失った牧場関係者で秘密基地に雇われた人たちもいるが、人種差別で適切なマスクをつけておらず、核兵器実験で被爆した体験談など、現在になって明らかになっている事実がたくさんある。

グレッグ・ミッチェルは、ロサンゼルス・タイムズの記事の中で、「この題材にタックルできるのは、クリストファー・ノーラン監督のような世界的に影響力のある監督しかいないと思うが、彼でさえ、最初の原子爆弾のテストに重きを置き、原爆投下で2つの都市 ( 広島と長崎 ) に何が起こったのかについては避けるほかなかったようだ」とコメントしている。実際に映画を見れば一目瞭然。原爆そのものの脅威はこの映画の中でも最小限で描かれている。実際に、アメリカの世論では、広島、長崎に原爆を投下したことの是非については、戦争終結を早めたかもしれないが、大量破壊と人命の損失は卑劣であるという批判も多い。グレッグ・ミッチェルは『The Beginning or the End: How Hollywood – and America ―Learned to Stop Worrying and Love the Bomb(現題)』とハリウッド、そしてアメリカが核兵器について心配するのでなく、爆弾を愛することにしたという、ハリウッド、そしてアメリカの映画史の本も出版している。