Jul 18, 2022 column

第14回:夏到来!映画『ソー:ラブ&サンダー』が全米興収トップで弾けている理由

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監督タイカ・ワイティティの新作『ソー:ラブ&サンダー』が全米興行収入のトップに躍り出た。続編を楽しみにしていたファンが飛びついた理由の一つは今までのマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)から離れていた子供の視点で描くというマーベル映画本来の初心に立ち返ったこと。

公開初週に続き、米業界誌面では、この映画に監督ほか、主演クリス・ヘムズワースやナタリー・ポートマン、そしてクリスチャン・ベールの子供たちが出演していることが話題で、小さい子供たちが楽しめる夏休み映画として、怖さ半減。大人のマーベルファンにとってはものたりない一面もあるようだ。

俳優、コメディアンとしても活躍しているタイカ・ワイティティ監督は『マイティ・ソー バトルロイヤル』から新しい雷神ソーの世界観を築き上げ、MCU作品上で、これほどまでに監督個人の感性を反映させられるのは、監督くらいだと囁かれている。マーベル・コミックスのファン以外にも前回のエピソードをおさらいつきで説明してくれるこの映画。熱い夏を吹き飛ばす要素が満載である。

タイカ・ワイティティ監督の不思議なユニバース

第92回アカデミー賞作品賞を含む6部門にノミネートされ、オリジナル脚本賞を受賞したインディペンデント映画『ジョジョ・ラビット』の記憶は新しい。ニュージーランドのマオリ族出身の父とユダヤ系ロシア人の母の間に生まれたワイティティ監督は小さい頃から一人で絵を書いたり、物語を自作自演していたという。

ニュージーランドを舞台に、親の都合で置き去りにされた子供達を描いた短編がアカデミー賞短編作品賞にノミネートされたのが2004年。拠点をドイツ、そしてアメリカに移し、サンダンス・インスティテュートの先住民プログラムに参加。自身の少年時代を反映した映画『ボーイ』で長編映画デビュー。俳優、声優、コメディアンとしても活躍しながら、映画『ジョジョ・ラビット』を脚本、監督。第二次世界大戦下の青少年集団「ヒトラーユーゲント」で、ウサギを殺せなかった少年を主人公に、ワイティティ監督自身が少年の空想上の友達アドルフ役を務め、奇想天外な映画で観客を沸かせた。以来、俳優業のほか、TVシリーズのプロデュースも含め、すでに2025年公開予定の新スターウォーズ映画の監督として名が発表されている。

MCUシリーズでは、『マイティ・ソー』3作目『マイティ・ソー バトルロイヤル』の監督として抜擢され、同じ南半球、オーストラリア出身の雷神ソー役俳優クリス・ヘムズワースと意気投合。ソーの役作りを膨らませているうちに、惑星囚人コーグをコメディタッチに描くことを考案。監督自ら、モーション・キャプチャーのスーツを着て、ギャグを飛ばしている。

ワイティティ監督の凄さは自ら執筆する脚本にもある。たくさんのキャラクターと宇宙で繋がっているマイティ・ソーの世界はときによって複雑で難解。しかし過去のエピソードを舞台形式でおさらいしたり、子供に語りかけるように説明するシーンなど、前作を見なくても、すんなり溶け込める構成はありがたい。

ニュージーランドの代表的監督、ピーター・ジャクソンのVFX制作会社WETAデジタルとも組んで、飛び跳ねるCGのエイリアンたちも見応えがある。コミックスのファンは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の導入にも歓声を上げ、1時間59分という映画の尺では短すぎると、主要キャラクター以外のエピソードをもっと観たかったという声まで上がっている。

ワイティティ監督の世界観は、無邪気な子供の目線で描きながらも、その子供たちの能力を信じる、温かい眼差しが根底にある。なつかしのスターがカメオ出演したり、映画ファンを有頂天にさせる派手な材料が詰め込まれているなかで、監督らしさが所狭しと盛り込まれているのは嬉しいかぎり。

監督特有の音楽センスも炸裂し、舞台は80年代音楽とヒップホップの祭典。ガンズ・アンド・ローゼズ の「パラダイス・シティ」「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」「ノーヴェンバー・レイン」「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」他、ABBAの「アワ・ラスト・サマー」など、なつかしいナンバーで盛り上げる。英国の幻のシンガー、ケイト・ブッシュの曲も使いたかったんだという監督の発言は音楽業界でも話題。脚本執筆の際、自らのサントラを作り上げ、それを聴きながら書くという音楽好きの監督に乗せられて、演じている俳優たちも、何かしら楽しそうに演技をしている。